2016年6月7日付の毎日新聞記事によると、文部科学省は2012年11月~2013年3月に5000万円をかけてチェルノブイリ原発事故の健康影響調査を行いましたが、2013年4月に業務を引き継いだ原子力規制長は、その内容を公表していなかったそうです。大きな批判を受けたため、規制庁は同庁のウェブサイトに近く掲載する予定です。
原子力規制庁の公表を待たずとも、チェルノブイリ原発事故の健康被害に関する情報はたくさん出回っています。そのうちの一つを以下に紹介します。
上記YouTubeビデオの日本語字幕を以下に書き起こします。
書き起こし始め
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(グロスマン)
ようこそ。司会のカール・グロスマンです。2011年4月26日はチェルノブイリの事故よりまる25年になります。その一方、世界中の原子力業界は再興を図っています。
この重要な本が出版されました。「チェルノブイリ~大惨事の環境と人々へのその後の影響」
について取り上げていきます。
この本は公開された医学的データに基づき、事件の起きた1986年から2004年までに、98万5千人が亡くなったとしています。そして、その死者数はさらに増え続けています。
スタジオにはジャネット・シェルマン博士をお迎えしています。ジャネット博士はこの本の寄稿者であります。
共著はベラルーシのアレクシー・ヤブロコフ博士、バシリー・ネステレンコ博士とアレクシー・ネステレンコ博士です。
ようこそジャネットさん。チェルノブイリ原発事故の死者は100万人ということですが死因は何でしょう?
(シェルマン博士)
癌、心臓病、脳障害や甲状腺ガンなど死因はさまざまでした。何より多くの子供達が死にました。胎内死亡、又は生後の先天性障害です。
(グロスマン)
科学者たちが98万5千という死者数を特定した方法は?
(シェルマン博士)
これは公開されている医学的データを基にしています。
(グロスマン)
原子力を規制・奨励する国際機関である国際原子力機関(IAEA)はチェルノブイリの死者数を約4千人とホームページで発表しています。これは本に発表されている98万5千人と大きく異なるのはなぜでしょう?
(シェルマン博士)
IAEAが発表したチェルノブイリフォーラムという調査書は、350の論文に基づき英文で公開されている資料でしたが、ヤブロコフ博士とネステレンコ博士たちは5千以上の論文を基にしています。それは英文の論文に限りませんでした。また実際に現場にいた人達の声を基にしています。現場にいたのは医師、科学者、獣医師、保健師など、地域の人々の病状を見ていた人たちです。
(グロスマン)
この本によりますと、世界保健機構(WHO)でさえ、チェルノブイリの真実を語っていないと批判していますね。WHOはIAEAと協定を結んでおり発表することができないとのことですが、それについて説明していただけますか?
(シェルマン博士)
1959年に結ばれた協定は、それ以来変わっていません。一方がもう一方の承諾を得ることなしに調査書を発表することを禁じています。WHOはIAEAの許可なしには調査書を発表できないのです。
(グロスマン)
IAEAは世界中の原子力の規制だけではなく原子力の促進を行う機関でもありますからね。当然、WHOに「原子力は健康に有害だ」と言われては困るわけです。
(シェルマン博士)
そのとおりです。こうした協定を終結すべきです。協定は破棄されるべきです。
(グロスマン)
さて毒物学者として 研究に生涯を捧げておいでのあなたが、今この本の編集をされている中、あらゆる科学的なデータをみた上で、チェルノブイリの犠牲者数は100万人と仰る。科学技術による史上最悪の事故ということですね。
(シェルマン博士)
そうです。
(グロスマン)
データを読み取り、本を編纂された時の感想は?
(シェルマン博士)
事態は私が思っていた以上に深刻でした。人々が癌や心臓病で命を落とすだけでなく、体中のすべての臓器が害されて、免疫機能、肺、眼内レンズや皮膚など、すべての器官が放射能の悪影響を受けたのです。しかも人間だけではありません。調査した全ての生き物、人、魚、木々、鳥、バクテリア、ウイルス、狼や牛など、生態系のすべてが、例外なく変わってしまいました。
(グロスマン)
そのことがこの本に書かれてあるんですね。
(シェルマン博士)
人間への影響にとどまらず、鳥や動物にも人間と同様の悪影響がありました。
(グロスマン)
今となっては癌と放射能の関係はわかりますが、心臓病はどうして起こるのでしょうか?
(シェルマン博士)
私がこの本を編集するときに気付いた重大なことの一つですが、バンダシェフスキーという科学者は、研究で、子供達の体内に蓄積されたセシウム137の量が、実験動物と同じ値になっていることを発見し、それが心臓にダメージを与えていることに気づきました。この研究結果を発表したことで、彼は刑務所に収監されてしまいました。
(グロスマン)
刑務所に収監されたんですか?
(シェルマン博士)
そうです。
(グロスマン)
彼は動物実験をしたんですか?
(シェルマン博士)
病理学者だった彼は、まず動物実験を行ってから子どもへの影響を調べようとしました。その結果、亡くなった子供たちの心臓に蓄積されたセシウムの量は動物の場合と同様でした。これを発表した謝礼として逮捕され刑務所に収監されました。
(グロスマン)
チェルノブイリからの放射能によって、ロシア、ベラルーシ、ウクライナは高濃度で汚染されましたが、この本によればそれどころか世界中に拡散したと書かれていますね。
(シェルマン博士)
そのとおりです。放射能がもっとも集中したのは前述の三国ですが、最大量の50%以上は北半球全体に行きわたったのです。特に北はスカンジナビア、東はアジア圏へと。
(グロスマン)
中国までもですね?
(シェルマン博士)
そうです。
(グロスマン)
チェルノブイリの事故による死者は近隣国だけでなく、もっと広いエリアで見られたということですが。
(シェルマン博士)
もちろんそうです。世界中です。
(グロスマン)
この悲劇はいつまで続くのでしょうか?放射性物質が浄化されるには千年はかかるでしょう?
(シェルマン博士)
もちろん。セシウム137及びストロンチウム90だけでも半減期は30年、少なくとも3世紀は残ります。多くの同位体が千年残るはずですので、おっしゃる通りです。
(グロスマン)
この本には最大の被害が起きたのは最初の数ヶ月もしくは数週間と強調していますが、とてつもない大火事が起きていた時のことですね?
(シェルマン博士)
はい。今でも原子炉から水道へダダ漏れしています。今も原子炉の周りの構造も安全ではありません。もし小地震でもあれば建物が崩壊する可能性もあります。原子炉は安全に覆われ、漏れてはいないとは言えません。
(グロスマン)
チェルノブイリの真実を語るこの本は、権威あるNY科学学会によって発行されましたね。科学の専門機関はこれ以外にもあるわけでしょうが、チェルノブイリの情報を外に出すことについて彼らの立場はどうなっているのでしょうか?
(シェルマン博士)
情報を外に出すことに好意的なグループもあり、原子力御用学者と組み合い、どの様な内容が書かれていたのかは明らかではなかったようです。
(グロスマン)
著者のヤブロコフ博士とネストレンコ博士たちは、チェルノブイリの影響を調べる為に、あなたとどのように取り組んだのですか?
(シェルマン博士)
彼らはWHOとIAEAの協定の事を前から知っていました。実はジュネーブのWHO本部の前で一日中、協定を抗議するデモを行っている人々がいます。
(グロスマン)
この方々がデモを行っている人達ですね。
(シェルマン博士)
そうです。
(グロスマン)
この本にはIAEAとWHOの「談合の協定」と呼んでいますね。
(シェルマン博士)
そうです。チェルノブイリの件で、ヤブロコフ博士は、ゴルバチョフとエリツィンの補佐を務めていました。事故直後の3年間、ソ連政府は情報の隠蔽を続けましたし、一般に真実を知らせまいとデータ収集もしませんでした。ヤブロコフ博士はそれを知り、情報収集を始めました。出版された論文の数は15万以上でしたが、この本の執筆には5千点以上が使われました。これらの資料は英語に訳されたことが無く、ほとんどがウクライナ語、ロシア語、ベラルーシ語の論文でした。こうした情報が西側世界の目に触れるのは初めてです。
(グロスマン)
人、動物、植物への影響について、違いはなんでしょうか?
(シェルマン博士)
いいえ。メカニズムは同じです。放射性同位体に汚染されると、人、鳥や動植物が受ける影響は、細胞が破壊されダメージを受けるということです。DNAへの損傷をもたらし、遺伝メカニズムがダメージを受けるという点で同じです。細胞を破壊するのであれば癌にはなりませんが、細胞にダメージが与えられると癌になります。もしくは先天性障害の原因となります。人や鳥だけでなく植物にさえ先天性障害が出ます。チェルノブイリのせいで植物にも変異が起こりました。
(グロスマン)
風の影響で北西が被害を受けたとのことですが、チェルノブイリや原子力とはまったく無縁だったスカンジナビアのラップランドの人々でさえも、雨などによる放射性物質拡散で余波を受けました。こうした事後的影響については?
(シェルマン博士)
最近の研究によると、チェルノブイリ事故当時に生まれたスカンジナビアの子供は、高校を卒業する割合が低いようです。知的能力に影響が出たのではないかと思います。私が知る限りのチェルノブイリの最悪な影響は、健康と言えるベラルーシの子供は、わずか2割だということです。つまり、8割のベラルーシの子供達はチェルノブイリ事故以前のデータと比べると健康でない状態だということです。医学的に健康でないだけでなく、知的にも標準以下となってしまっているのです。
(グロスマン)
知的能力の低下と放射能の関係について教えてください。
(シェルマン博士)
妊婦たちが食べる物の汚染については、きちんと知らされていない場合が多かったようです。または汚染されていない食べ物が手に入らなかったんです。妊娠中に放射性同位体が体内に入ると、母体を通じて胎児に届き、心臓、肺、甲状腺、脳とすべての細胞、免疫系統にもダメージを与えたのです。こうした子どもたちは未熟児で、生まれつき健康状態が悪く、死産の率も非常に高く、これは被曝がもたらした結果です。人間の文化に起こりうる最悪の悲劇です。
(グロスマン)
チェルノブイリの原発事故があったウクライナは、旧ソ連の一大穀倉地帯でした。チェルノブイリ原発では3機の原子炉が今でも運転中です。そこでとれた食べ物はあちらこちらへと出荷されました。
(シェルマン博士)
はい。これは、きわめて深刻な問題です。数百年間も土壌汚染が続く中、どの様にして食料を人々に賄っていけばよいのでしょうか?しかも小麦やライ麦などの穀物だけでなくマッシュルームも汚染されています。重要な食料と思えないかもしれませんが、この地域では広く流通する食材で、非常に高濃度で汚染されています。
(グロスマン)
本は医学的データに基づき、死者数は98万5千人と結論づけました。けれども、このデータは1986年から2004年までのもので、番組のはじめに「100万人の犠牲者」という言葉を使いましたが、やはりチェルノブイリの犠牲者の数はその位になりますでしょうか?
(シェルマン博士)
そう思います。やがてその莫大な規模が知られることでしょう。例えば「清算人」と呼ばれた人たちがいました。近隣諸国から主に軍より召集された若き男女でした。火災を消火し、問題の原子炉を封印する仕事をさせられました。その15%が死亡しています。この人達は18~30歳位の若い男女だったのです。
(グロスマン)
原子炉から放出された放射性物質の数量ですが、これにつきましても、本が記す数値と公式発表された数値に大幅な違いがありますね?
(シェルマン博士)
まったくです。もし放出されたのが少量だったならば、低レベルの放射性物質は極めて危険ということですし、もしそれが大量に放出されたのだったら、その甚大な被害の規模をみなければなりません。しかし私達はいまだに真相を知らないのです。なぜなら、原子炉に残されているものは何か、地下水に漏れ出しているものは何かを実際に現場へ行って確かめる事ができないからです。
(グロスマン)
原子力の安全性はどういうことになりますか?原子力産業、原子力関係の組織は大抵、政府系の機関だったりするもので、原子力「ルネサンス」の再興を押しまくり原発をもっと建設しようとしていますね。チェルノブイリ原発事故の教訓は?
(シェルマン博士)
私が思う教訓とは、技術を促進する前に慎重に考えることだと思います。例えば、BP社によるメキシコ湾の石油採掘については、何の問題もないと私たちは聞かされていました。一つの問題として、技術者たちは技術に関する事については分かりますが、彼らは生物学をよく理解していません。彼らは設備周辺にある生物生命に与える影響を理解していません。チェルノブイリ事故の最大の教訓は、汚染されたすべての生物に影響を与えたことです。例外はないのです。
(グロスマン)
本には梟(フクロウ)の事も書かれていましたね。動物への影響についても少し詳しくお願いします。
(シェルマン博士)
本のカバーの写真を撮った南カロライナ大学のティム・ウーソールさんは、25人以上の科学者をチェルノブイリ現地に連れて行き、昆虫、鳥、ふくろうとあらゆる動物を調査しました。現地調査をしている時、突然ミツバチがいないことに気づき、木の実が落ちていないことにも気づいたと言ってました。実がないのは花粉を運ぶミツバチがいないからです。
現実になっているかもしれない彼の予想ですが、今だに崩壊し続けている放射性同位体によって、チェルノブイリ周辺の生命体がすべて失われた可能性もあること言う事です。すべての種を絶滅させるかもしれないのです。そこは渡り鳥の主な飛行ルートです。渡り鳥が来た後、どうなっているかわかりませんから。土壌にある物を何でも食べて、チェルノブイリを飛び立って行きます。小果実を糞としてチェルノブイリ以外の場所でしているはずです。
(グロスマン)
放射能は遺伝子に甚大な影響を与えるのですよね?それについてはどうお考えですか?
(シェルマン博士)
これは改善する見込みのない話です。一度遺伝子が損傷を受けると、何世代にも引き継がれます。ですから、こういった損傷が人、鳥や植物の遺伝子に起きていて、それぞれの種を増進することは無いでしょう。
(グロスマン)
具体的にどの様な遺伝子損傷のことですか?
(シェルマン博士)
脳や心臓、肺への影響、腕のない子供、水頭症の赤ちゃんです。鳥の場合は、羽毛とくちばしの変化、脳の大きさなどがあります。これらの鳥はあまり利口ではなく、汚染されていない鳥に比べそれほどよく生きていません。植物も永久的に変ったのも分かっています。難しいことではないのです。放射性同位体の行き先は明らかです。ヨウ素は甲状腺に、ストロンチウムは骨や歯に蓄積します。特に胎児に影響が及ばれます。セシウム137は心臓と筋肉に蓄積されます。これは謎ではありません。これを知っていると、どんな悪影響がでるのかを予測できます。そして、結果はまさに予測通りであり、それを本で証明しました。
(グロスマン)
「チェルノブイリ事故による犠牲者はわずか数千人」とよく引用されて聞きますが、これは史上最大の嘘の一つですよね。
(シェルマン博士)
はい。追及もされずに逃れています。私たちはWHOと国連に圧力をかけねばなりません。WHOとIAEAを分離させることです。
(グロスマン)
WHOとIAEAのみならず、ここ米国の原子力規制委員会もまた、放射性物質の影響を過小評価しようとしていますね。
(シェルマン博士)
全くその通りです。私は、原子力規制委員会の前身であった原子力委員会(AEC)で働いていました。それはカリフォルニア大学内で、1952年のことでした。新卒で働いていました。当時の私の限られた教育と経験でも、他の人が思っているより放射能は危険とわかっていました。放射能のもたらす害については米国民に対しても何十年間に渡り、秘密と嘘が貫かれました。隠蔽及びデータの書き換えが行われ、多少の放射能なんか大丈夫と吹聴されました。しかし、デービスベッセ 原発所ではメンテナンス不足の為、炉心が格納容器の中で溶けだすところだったことがわかっています。米国でなくとも世界のどこかで再び、原発事故が起こるのは時間の問題だと信じています。
(中略)
(グロスマン)
原子力産業の関係者はなぜ嘘やごまかしをするのでしょうか?
(シェルマン博士)
複合的な要因があるでしょう。金や原子力を促進する企業による支配もそうですが米国の人々はあまりにも原子力について無知です。生物学を全く理解していない学者がいます。町で20人の人を集めて肝臓に手を当てと言ってもできる人は半分もいないと私は賭けますよ。放射能の害についての教育を考えると、現在の米国はあまりにもお粗末で、子供達は生物・物理・化学を学んでいない。米国の文化経済に占める位置は大きいのにです。
(グロスマン)
チェルノブイリの影響を表すデータを見る上で、数十年前のご経験は役に立ちましたか?
(シェルマン博士)
もちろんです。放射能が与える悪影響につきましては、もう何十年にも渡り広く知られています。ここ数年間で突然明らかになったことではありません。物理を少しでも知っている科学者なら誰でも、放射性同位体が人体、植物又は鳥のどこに入っていくか位はわかるはずです。謎の科学ではありません。
(グロスマン)
チェルノブイリの犠牲者が100万人というとき、テクノロジーの歴史やその現場にとって何を意味しますか?
(シェルマン博士)
技術だけに頼るのは間違いだということです。それを設計・操作する人間にも頼るべきではない。なぜなら、最終的にチェルノブイリ事件の様なミスを起こすのは人間だからです。
(グロスマン)
健康への影響は大規模ですね。
(シェルマン博士)
そのとおりです。北半球全域にわたります。
(グロスマン)
放射性物質の降下地点で人々は死んでいます。
(シェルマン博士)
死ななければ、子どもたちは知的・医学的障害をもって生まれてきています。これがいまだに続いており、まだ終りではないのです。
(以下略)
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書き起こし終わり
上記ビデオの収録が行われたのは2011年3月5日であり、その6日後、日本で福島原発事故が発生しました。その後の原発マフィアによる情報隠ぺい・歪曲はご存知の通りです。
事実の隠ぺいに奔走していた旧ソ連を馬鹿にすることができませんね。チェルノブイリ原発事故による健康被害について事実を把握し、現実を直視する姿勢があれば、このような醜態を世界に対してさらすことは無かったでしょう。原発マフィアに限らず、一般市民も「風評被害」という心地よいウソに流され、見て見ぬふりをしています。
日本人が失敗から学び進歩するようになるのは、いつの日のことでしょうか?
以上