今回は、分かっていながら見て見ぬふりをすることがどんなに危険か、どれだけ高くつくかを論じたいと思います。項目としては、次の3つです。
1)ブラック企業の蔓延
2)アスベストによる健康被害の実例
3)放射性物質による健康被害
1)ブラック企業の蔓延
ブラック企業という言葉はすっかり市民権を得た感があります。目先の利益のために法律違反を犯す悪徳経営者と奴隷管理職が直接の原因ですが、それだけではブラック企業は生まれません。従業員の協力があって初めてブラックな職場が成り立つのです。
問題意識もなく奴隷になることが生きがいの者、悪いことだと知っていても勇気が無く上長に指摘できない者、さざ波を立てないことが自分を守ることにつながると誤解している者など、様態は様々です。見て見ぬふりの事なかれ主義が蔓延すると、経営者側はますます増長します。過労死や過労自殺など、日本特有の現象も頻発しているようです。
どうしても上司に異を唱えられない場合は、労働基準監督署に電話をすればいいのです。実名を名乗ることにリスクを感じるならば、匿名の情報提供だと伝えれば、親身になって話を聞いてくれます。もちろん、会社名・部署名・経営者名はしっかり実名で伝えて、法律違反の具体的事実をなるべく詳しく伝えます。臨検で事実を確認の上、会社側に指導してほしいと伝えればきちんと動いてくれます。経営者側は労働基準監督署をとても恐れていますから効果てきめんです。かなりの抑止効果を期待できます。
自分は匿名で、監督署に電話をするだけでいいのですが、この程度の手間や工夫すら面倒臭がってやろうとしない人がほとんどではないでしょうか?自分がやらなくても誰かがやってくれる、忙しい、など言い訳は人さまざまですが、一人一人の小さなサボタージュが積み重なって、会社側の犯罪を徐々に大きくしているのです。例えば少額の残業代不払いであっても、人数が増え期間が長引けば、従業員から大金を泥棒したのと同じになります。奴隷サラリーマンは企業犯罪を助長しているのです。
小さな不正は小さいうちに摘み取るのが原則です。放置しておくと組織の上から下まで堕落してしまい、社会に対してまともな商品を提供できなくなります。大手の企業でも安心ではありません。事なかれ主義を放置しておけば、長期的には組織自体が淘汰され、悲惨な末路を辿ります。その過程で人が死ぬこともあり得るでしょう。悲劇を避けるのに特別な能力は必要ありません。どこにでもいる普通の人たちが、面倒くさがらずに当たり前のことを実践すればいいのです。これぞ本当の愛社精神です。
2)アスベストによる健康被害の実例
上のビデオは、アスベストによる健康被害を受けながら、事実を知ろうとせず、意図的に無視する人たちの話です。
アメリカ:モンタナ州の小さな町で、ゲイラというごく普通の女性は、学校を卒業した後に就職し、家を一軒ずつ回ってガスや電気の計量メーターを検針する仕事を始めました。昼間だというのに働き盛りの男性たちが大勢家にいて、酸素ボンベをつけていることを奇妙に感じました。そのうち、ゲイラの両親も亡くなりました。町中に広がっている健康悪化の原因をゲイラは探し求め、ついにアスベストの存在に気付いたのです。町には、アスベストを多量に含有するバーミキュライトの鉱山があり、そのバーミキュライトという土は、町中で利用されていました。
研究者の協力による裏付けも取れたので、町中の皆に事実を話して回りましたが、みんな嫌がるばかりで知ろうとしません。それでも諦めず、ついに町へ連邦政府機関を呼び、住民1万5千人の健康診断にこぎつけました。その結果、その町の死亡率はアメリカ平均の80倍であることが判明しました。その時ですら、町民の間では、事実の「意図的な無視」が横行していました。自分たちが生命の危機に直面していながら、見て見ぬふりを止められないとは、人間とは何と弱い存在でしょう。
繰り返しますが、アスベスト問題を告発したゲイラという女性は普通の人です。セレブでもなければ専門家でもない普通の人ですが、誠実で、自分の町のことを大切に思っている人。そして、行動・発言するという自由を行使し、決してあきらめなかったのです。
3)放射性物質による健康被害
2011年3月の福島原発事故により大量の放射性物質が放出され、現在でも事故は進行しています。しかし、人々の事故の記憶は薄れています。「食べて応援」や「風評被害」という言葉は、原子力マフィアが作ったものです。放射能のことなんて忘れちまおうぜ、というキャンペーンです。
日本の総人口で原子力マフィアとその関係者が占める割合は少ないにもかかわらず、「食べて応援」や「風評被害」が大きな効果を持つのはナゼでしょうか?一般国民も、放射性物質や健康被害など、面倒な事を考えたくないからです。原子力マフィアという加害者側と被害者側が協力して事実の隠ぺいをしているのです。
福島原発事故はチェルノブイリと同じレベル7であり、大量の放射性物質が拡散したことを、皆知っています。放射性物質が危険なこともみんな知っています。チェルノブイリ原発周辺の広大な地域で健康被害が発生していることも知っています。歴史上の公害問題を振り返れば、政府や企業が都合の悪い事実を隠ぺいすることも、みんな知っています。実際、安倍政権になってから、マスコミの原発報道が極端に減りました。ほとんどの国民は、「面倒なことを考えずに済むし都合が良い」と思っているのではないでしょうか?これも、「意図的な無視」に当たります。
知るべき情報で、かつ、知ることができる状態にも関わらず、見て見ぬふりをする。故意に無視する。現実、書籍やネットでいくらでも知識を補うことができるのに、しない。目先の自分の損得や快楽を優先し、面倒事から逃げ回る。そればかりか、原発反対を訴える人たちを「放射脳」と揶揄する始末・・・。
チェルノブイリでは、事故後長らく事実の隠ぺいが続きましたが、あまりにも健康被害がひどくなり過ぎて、どうにも隠すことができなくなったのです。チェルノブイリ原発事故による死者数は100万人以上と言われています。しかも、傷ついた遺伝子は何世代にも渡って引き継がれます。取り返しがつきません。原発が、世界中の保険会社から相手にされていないのも当然ですね。
原発事故は一部の原子力専門家に任せておけばそのうち解決する問題ではありません。普通の人たちが、声を上げて行動するという自由を行使しなければならないのです。具体的には次の項目を、政府に対して要求すべきでしょう。
①放射能レベルの正確な測定を行い、結果を全て公表する。
②外部被爆、内部被爆の危険について、最新の知見を国民へ提供する。
➂避難地域選定については、最低限、チェルノブイリ基準を適用する。
④避難先で不自由がないように、住居、仕事、収入については十二分に援助する。
⑤避難対象者の医療費については生涯無料とし、診断結果は本人へ丁寧に説明する。
⑥原発は即廃止し、福島原発も含めて廃炉作業は安全第一で進めること。
ある日突然、自分の住んでいる国・地域が放射性物質で汚染されてしまうという理不尽さを考えれば、上記①〜⑥は最低限必要なことです。該当者が何千万人いるか知りませんが、当たり前のことを要求するという自由を、選挙などを通じて行使しなければなりません。自由は行使しなければ存在しないのと同じです。「誰かがやってくれる。俺知らね」という、お任せ民主主義では、自分の身を守ることはできません。
以上