2011年3月に発生した福島原発事故の収束対応作業が懸命に行われている。健康を害しながら一番大変な思いをしているのは、言うまでもなく現場での作業している人たちだ。時代遅れな放射線被ばく基準値の下で、健康被害に関する知識も情報も乏しい状態で、結果的に犠牲者となりつつある。
世間は面倒なことを忘れやすい。日本人は特にその傾向が強い。しかし、山本太郎議員は、最前線で危険な作業を強いられている人たちに光を当て続けている。国会の場で、彼らの置かれている過酷な状況を明らかにし、明確な対策を求めるとともに、東京電力や官僚たちの無関心で無慈悲で冷酷な態度を浮き彫りにしている。
以下のYouTubeビデオでその様子を確認することができる。2017年2月15日、参議院で行われた資源エネルギーに関する調査会で、山本太郎議員は放射線白内障をテーマに掲げて、鋭い質問を投げかけている。
以下に、調査会でのやり取りの要点を記す。
************************
まず山本太郎議員は、命を削りながら福島原発で作業をしている人たちに対して、心からの感謝と安全対策の徹底を宣言することを、東京電力廣瀬社長に対して求めている。
東京電力の廣瀬社長の回答要旨:
「毎日何千人もの人たちが大変な作業をしており、大変感謝している。安心して作業できるように放射線対策を引き続き実施していくつもりだ。」
次に山本氏は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告が信頼できるものなのかどうか質問した。
経済産業省の片山総括審議官の回答要旨:
「ICRPの基準は放射線防護の基準を作る際に尊重している。」
目の水晶体は厚さ4㎜、直径10㎜程度、1000層もの細胞で構成されている。体の中では放射線への感受性が最も高い組織のうちの一つだ。放射線を浴びると突然変異で濁った細胞が作り出され、そのまま増殖、蓄積され放射線白内障になる。それゆえ、水晶体の線量限度が定められているが、具体的な数値を山本氏は質問した。
経済産業省の片山総括審議官の回答要旨:
「年間150ミリシーベルトであり、ICRPの1990年勧告に基づいている。」
ICRPは1990年以降にも勧告を出している。2011年に出された声明では数値はいくつなのか、山本氏の質問が続く。
経済産業省の片山総括審議官の回答要旨:
「5年平均で年間20ミリシーベルト、年間最大で50ミリシーベルトになっています。」
5年平均で年間20ミリシーベルトという2011年ICRP勧告と、1990年の勧告である年間150ミリシーベルトでは7.5倍も差がある。日本の原発労働者の水晶体は、最新の勧告値と比べて7.5倍もの被ばく量にさらされている。ひどい話である。原発以外のすべての放射線作業者にこの高い数値が適用されており、非人道的である。これら山本氏の指摘はもっともだ。
法律は守っていても、その基準値が現実にそぐわないものならば、国に対して数値改定の要求を出すべきである。2011年にICRPが水晶体の線量限度に関する数値を引き下げて以降、省庁に対して東電が線量基準を下げるよう具体的に要求を出したのか?、山本氏は質問した。
東京電力の廣瀬社長の回答要旨:
「要求はしていない。」
廣瀬社長は企業のトップとして、末端の労働者を守るという意識に欠けている。「何千人もの人たちが大変な作業をしており、大変感謝している。安心して作業できるように放射線対策を引き続き実施していくつもりだ。」という冒頭の発言は、真っ赤なウソであることを山本太郎議員は明らかにした。
この国会で、労働基準法が改正される予定だ。2011年のICRP勧告に基づいて水晶体の線量限度に関する数値を引き下げることが重要だという意識が原子力規制庁にあるのかどうか、山本議員が質問した。
経済産業省の片山総括審議官の回答要旨:
「水晶体の線量限度に関する数値引き下げが必要という認識があり、法改正を含めて準備中だ。」
次に山本太郎議員は、原発の現場で、水晶体の線量限度引き下げが適用されるのはいつになるのか、具体的な日程を質問した。
山田規制部長の回答要旨:
「具体的な日程は不明だが、努力はして参りたい。」
山本議員の質問要旨:
「こんなやり方では1年以上かかってしまう。福島原発事故現場での作業者が被っている健康被害は緊急性の高い課題だ。2011年にICRPの新しい勧告が出た後、実質何も対応してこなかったにもかかわらず、何をのんびりしているのか?今現在も現場作業者の被ばくは続いており、一刻を争う問題だ。過去に、福島原発が爆発した緊急事態の時は、一日で省令を変更し対応したこともある。目の水晶体線量限度引き下げに関しては、緊急事態だという意識が無いのではないか?急いで頂きたい。福島原発事故の現場は、世界で最もヒドイ被ばく環境である。この環境で働いている大勢の作業者の人たちに対して、最新の知見を速やかに適用するのは当たり前のことだ。私はチェルノブイリに行って、白内障になった作業者に実際会っている。
東電の社長は救済策を説明して欲しい。厚生労働省にはしっかり取り組むと約束をして欲しい。」
東京電力の廣瀬社長の回答要旨:
「線量を下げるような努力を継続し、被ばく線量を管理し、健康管理にもしっかり取り組んでまいりたい。」
堀内労働大臣政務官の回答要旨:
「厚生労働省としては、最新の国際的知見も踏まえ、廃炉作業に従事する人たちの健康管理にしっかりと取り組んで参りたい。」
山本議員のコメント要旨:
「まったく答えになっていない。」
************************
実際にビデオを観て頂くと良くわかるのだが、山本太郎議員の熱心な問いかけと、東電社長や官僚たちの木で鼻を括るような答弁がとても対照的である。見ていて歯がゆい。暖簾に腕押しとは正にこのことだろう。
国会では孤立無援に近い状態ありながら、このような地道な活動を粘り強く継続している山本太郎議員に敬意を表したい。そして、国民の関心がもっともっと高くなることを願わずにはいられない。
以上