【福島原発事故の影響】放射性物質の中で生活するのはナゼ危険なのか?

 2011年3月、福島第一原子力発電所の損壊事故により、大量の放射性物質が世界中に拡散された。事故発生から5年以上が経過しているが、いまだに原子力緊急事態宣言が発令されたままであり、放射性物質は毎日漏れ続けている。チェルノブイリ原発事故のような石棺による封じ込めすらできていないのである。

 最も大量に放出された長寿命放射性核種はセシウム137だ。日本の国土はひどく汚染された。

写真(放射性セシウムによる土壌汚染) 出典:IPPNW-Report "Health consequences resulting from Fukushima Update 2015"

写真(放射性セシウムによる土壌汚染) 出典:IPPNW-Report “Health consequences resulting from Fukushima Update 2015”

 セシウム化合物は簡単に水に溶けるため、生物圏で簡単に移動し広がっていく。この危険物質が消滅するには300年以上かかる。厄介な代物だ。カリウムのような天然の放射性物質と異なり、セシウムのような人口放射性物質は人類と共存できず、五感で検知できず、かつ、極めて毒性が強い。

 放射性物質が放つ放射線というエネルギーは人間の組織を破壊する。たった0.5グラムのセシウム137が1平方キロメートルの範囲に均一に分散されただけで、その区域は100年以上居住不可能になるのだ。

 最初に、外部被ばくについて述べる。

 年間1ミリシーベルトという被ばく許容量を超える区域は、1万1500平方キロ以上に及んだ。原子力緊急事態宣言が発令されている間だけは、避難時などの被ばくを考慮し年間20ミリシーベルトまで許容量が引き上げられる。日本政府は、この緊急時の被ばく限度を永遠に適用し続けることを決定した。強制的に避難させるべき警戒区域の範囲をできるだけ狭めるのが目的だ。

 年間20ミリシーベルトという被ばく量は、胸部X線を1年で1000回浴びることに相当する。これだけ危険な環境に居住を許可している日本政府の所業がいかに非人道的か理解できるだろう。放射線による健康リスクは、年齢が低いほど、また、男性よりも女性の方が大きくなる。

 日本ではほとんど議論されていないが、放射線を体の外から浴びる外部被ばくよりも、呼吸や食事で体内に放射性物質を取り込むことによる内部被ばくの方がはるかに危険なのだ。毎日の生活の中で体内にどんどん蓄積し、食物連鎖の頂点に立つ人間の場合、濃縮は100万倍になる。セシウム137は極めて低濃度であっても、様々ながん、白血病、遺伝子突然変異、先天性欠損症、奇形、流産などをもたらすことに留意しなければならない。

 例えば、セシウム137を毎日10ベクレルづつ摂取した場合、500日後には体内の総放射線量は1400ベクレルにも達する。(1ベクレルとは、1個の原子が1秒間に崩壊する時の放射線の強さに等しい)体重70キログラムの大人ならば、1キログラム当たり20ベクレルだが、体重20キログラムの子供の場合、1キログラム当たり70ベクレルになってしまう。体重1キログラム当たりのベクレル数が多くなるほど心臓に悪影響を与えやすいことが判っている。

図(放射性セシウム量と心臓への悪影響の関係) 出典:バンダジェフスキー博士 「放射性セシウムと心臓」

図(放射性セシウム量と心臓への悪影響の関係) 出典:バンダジェフスキー博士 「放射性セシウムと心臓」

 特に体重1キログラム当たり50ベクレルを超えると、心臓血管系・神経系・内分泌系・免疫系・生殖系・消化器系・排泄系で病的な変化が増加する。セシウム137は、体内の様々な臓器に偏在し濃縮されるのが原因だ。人工放射性物質には、これ以下なら安全という閾値は存在しない。

図(臓器ごとの放射性セシウム137蓄積量) 出典:バンダジェフスキー博士 「放射性セシウムと心臓」

図(臓器ごとの放射性セシウム137蓄積量) 出典:バンダジェフスキー博士 「放射性セシウムと心臓」

 チェルノブイリ原発事故に伴い、ベラルーシでこの研究を行い発表したバンダジェフスキー博士は逮捕・投獄され、拷問も受けている。日本では特定秘密保護法が成立しており、似たような人権侵害が起こる可能性が高い。

 チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシでは深刻な汚染地域に200万人以上が居住していた。その結果、健康な子供の割合は2割以下に落ち込んだ。胃腸の異常、心臓の衰え、白内障、血液疾患、甲状腺の機能不良が頻発し、死亡率は激増し、出生率は落ち込んだ。原子力利権の総本山であるIAEA(国際原子力機関)や、その仲間であるWHO(世界保健機関)は、こういった事実を無視している。

 日本の放射線被ばく避難基準はチェルノブイリよりもはるかに緩い。より危険な汚染地域に数百万人という国民が危険性も知らされないまま住み続けている。汚染された食料はまともな検査もされずに広く流通している。すでに2012年4月の段階で、宮城・群馬・栃木・茨城各県で死産および乳児死亡率の著しい上昇(51%)が確認されている。今後、福島原発事故から10年、15年、20年と経過した時、どのような健康被害が顕在化するのだろうか?10万人、20万人といわれる限られた避難者だけの話ではないのである。日本国民全員が考えるべき問題である。

 国民の生命・財産を守ることに無関心な日本政府は事故の後始末には無関心で、原発の再稼働や新規建設、輸出ばかりに熱心だ。原子力マフィアの一角を占める御用メディアは「原発安心神話」の醸成に尽力し、政府の亡国政策に協力を惜しまない。賢い国民はキチンと目を見開き、厳しい事実を直視し、原発廃止や避難区域拡大などの政治的意思表示をしなければならない。

参考文献:

終わりなき危機~日本のメディアが伝えない、世界の科学者による福島原発事故研究報告書~

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以上

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