勇気ある告発の書「ブラックボックス」
「レイプ犯罪はどのようにして行われるのか?」
「レイプの被害者は心身にどのような傷を負うのか?」
「被害者の人生は、どのような影響を受けるのか?」
「被害者を救済する機関は適切に機能しているのか?」
「捜査機関や司法システムは加害者を罰することができるのか?」
「再発を防止する機能を日本社会は持っているのか?」
今回は、これらの疑問に答えてくれる書籍を紹介する。
ジャーナリスト:伊藤詩織氏が書いた「ブラックボックス」(文藝春秋社)である。
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被害者が泣き寝入りを強いられる後進国:日本
女性を含む立場の弱い被害者が泣き寝入りを強いられる後進国:日本では、強姦被害にあってもそれを届け出る人は一握りに過ぎない。
ほとんどは自分一人で抱え込み、魂を殺された状態で生きているという。
勇気を出して助けを求めようにも、どこに行ったらいいか分からない。
病院に行っても、被害者に寄り添った対応はされず、検査や証拠の保全もままならない。
警察へ行ったら男性警察官に囲まれ、非難の言葉を浴びせられ、「処女なのか?」という辱めの質問を受ける。
性行為の証拠が揃っても、被疑者が「相手との合意があった」と主張すればそれを反証するのは難しく、起訴されないケースが多い。
結果として、加害者が罰せられず、レイプ魔がのさばり続け、犯罪の再発防止機能が働かないなど、・・・
著者の伊藤詩織氏は、自分自身の被害体験や調査をもとにして、説得力のある主張を展開している。
加害男性への恨みではなく、再発防止の観点から、社会システムの改善を訴えている。
日本よりも海外での反響が大きいという事実
自身の性被害体験に立脚しており、圧倒的な説得力で読者に迫ってくる。
弱い立場の被害者が顔と名前を出し、これだけ詳細に事実を公表した稀有な事例である。
一般人への啓蒙効果だけでなく、海外のマスコミがたくさん取り上げるようになった。
伊藤詩織さんの件は、日本における #MeToo 運動と絡めてBBCやNYタイムズ、スウェーデンのダーゲンス・ニュヘテルでも取り上げられ、他にもフランスのフィガロやルモンド、イタリアのコリエーレ・デッラ・セーラ等で報道されている。それに引き換え、国内メディアの怠慢ぶりは一体何なのか。 pic.twitter.com/UWikT7BH4F
— 異邦人 (@Beriozka1917) 2017年12月30日
肝心の日本のメディアでの扱いが小さい理由:
一被害者としてだけではなく、ジャーナリストとして問題追及に取り組み、勇気をもって声を上げ、巨大な組織・社会の壁に挑む姿勢に敬意を表したい。
伊藤詩織氏の性的被害ケースは、言うまでもなく氷山の一角だ。
この件が世間の注目を浴びているのは、実名で顔を出して告発しているからだけではない。
被疑者男性である山口氏がアベ友で、著名なジャーナリストであるため、捜査に手心が加えられた可能性が濃厚なのだ。
安倍政権の広報と化していた日本のメディアは権力に忖度し、報道の扱いは小さい。
卑劣・卑怯者が「出世」する日本というシステム
実際、本著書には、被疑者:山口氏が首相官邸内閣情報官に助けを求め相談するメールが紹介されている。
検察審査会もブラックボックスそのもので、不起訴に至る過程が故意に隠されている。
国会議員が追及しても頑なに回答拒否する様は異様である。
権力者による司法システムの私物化といわれても反論できまい。
当時、警視庁刑事部長だった中村格氏は、本人も認めている通り、被疑者男性逮捕を直前で止めさせた。
逮捕の執行を直前で取りやめた理由を、著者の伊藤詩織氏は中村格氏へ直接尋ねたが、中村氏は「すごい勢いで逃げた」という。
伊藤氏は「人生で警察を追いかけることがあるとは思わなかった」と本著書内で述べている。
その後、中村格氏は警察庁長官となり、2023年2月1日、日本生命保険の特別顧問に就任している。
弱者を足蹴にする人間が「出世」し好待遇を得られる社会構造に寒気を覚えるのは私だけだろうか?
意識を失った女性に性的暴行を加え支配欲を満たした山口氏といい、公務員としての説明義務を放棄してコソコソ逃げ出す中村氏といい、卑劣・卑怯者という言葉がピッタリである。
権力や社会的名声があっても、人間として自信も誇りも持っていないのだろう。
だからこそ、安倍官邸に出入りすることができるようになったのでは?、と勘繰りたくなる。
今より暮らしやすい未来の社会を実現するために
本書に関しては、「圧倒的ノンフィクション」という紹介文は決してオーバーではない。
権力側に忖度して日本のマスコミは報道を控えているが、老若男女問わず多くの人に読んでほしい秀作である。
法律や制度の改良や定着には、人々の理解と長い時間が必要なのだから。
以下、本書からの引用
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この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に降りかかってくるか、誰にも予測はできないのだ。
私が本当に話したいのは、「起こったこと」そのものではない。
「どう起こらないようにするか」「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」 という未来の話である。それを話すために、あえて「過去に起こったこと」を話しているだけなのだ。
あくまで私が伝えたかったのは、被害者が泣き寝入りせざるを得ない法律の問題点や、捜査、そして社会のあり方についてだ。
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以上