元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏が、2015年4月25に日本外国特派員協会で記者会見を行い、福島の現状について要点を述べています。この内容を基にして海外メディアは世界中に情報を発信したはずです。詳細は下記ビデオをご覧ください。
「Hiroaki Koide: “The Trouble with Nuclear Power”」
上記ビデオ中の小出氏発言の中から、一部を以下に書き起こしします。(資料は筆者による選定・引用です)
書き起こし始め
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当時の野田首相という方が「事故収束宣言」というのを出しました。私はその時にも「冗談を言わないでください」と思いました。事故からずでに4年経っていますが、残念ながら事故は全く収束できないままです。
2011年3月11日に運転していた1号機から3号機は、原子炉が溶け落ちてしまったわけですが、その溶け落ちた炉心が、今現在どこに、どのような状態で存在しているか、誰もわかりません。なぜなら、4年経った今でも現場に行くことができないからです。人間が行けば即死します。そのため、ロボットを行かせようとしているのですが、ロボットも放射線というものに関しては大変弱いので、送り込んだロボットはみんな戻ってこられないという状態になっています。
4年経っても現場に行くようなことができないという事故は、原子力発電所以外には決して起きないという、そういう過酷な事故です。
仕方がないので、これ以上炉心を溶かすことはできないというので、ひたすら4年間水を注入し続けています。しかしそんなことをすれば、送り込んだ水が放射能で汚れた汚染水になってしまうということは避けようがありません。
今現在も毎日300トンから400トンというような放射能汚染水が増加しています。
それをなんとか環境に出さないようにしなければいけないということで、労働者が福島第一原子力発電所の現場で苦闘しています。
その労働者たちはもちろん東京電力の社員ではありません。下請け孫請け、そのまた下請け、孫請け。8次、9次、10次というような、多重な下請け関係の中で、労働者が賃金を受け取る時には最低賃金にも満たないというような労働者が現場で苦闘しています。
今現在、日本というこの国は自民党という政党が政権を取っていて、安倍さんという人が首相をやっていますが、安倍さんは「何よりも経済最優先だ」ということで、オリンピックを誘致しようとしています。そのために「福島第一原子力発電所はアンダーコントロールだ」と彼は言ったわけですが、残念ながらいまだに苦闘は続いていますし、これから労働者がどんどん被曝をしながら、何年も何十年も戦わなければいけないという、そういう状態になってしまっています。
残念ながらすでに大量の放射性物質が環境に放出されてしまいました。今この瞬間も福島県を中心にした汚染地帯で、人々が被曝をし続けているわけですが、その状況はこれから何年も、何十年も、あるいは何百年も続かざるを得ないという状況になっています。
放射能汚染水が増加しているわけですが、それを東京電力はとにかくタンクを作って溜め込もうとしてきました。それがここに、一群のタンク群としてどんどんどんどん膨れ上がってきているという状態です。今現在50万トンを超える放射能汚染水がこの中に溜まっています。(筆者注:2017年3月時点で、汚染水の総量は約100万トンに達した。)
何れにしても福島第一原子力発電所の敷地には限りがありますので、タンクの増設も無限にできるわけではありませんし、あまり遠くない将来、「東京電力は放射能汚染水を海に流す」という、そういうことになるだろうと私は思っています。
そしてこういうタンクは、ほとんどが応急タンクです。きちっとしたタンクを作ろうとすれば、労働者がどんどん被曝をしてしまいますので、応急タンクしか建設できないという状態できていますし、あちこちで漏れが進んでいます。
その上、壊れてしまった原子炉建屋、タービン建屋などにも汚染水がたまって、そこからどんどん、日常的に放射能汚染水が敷地の中に漏れてきてしまって、今現在福島第一原子力発電所の敷地全体が、放射能の沼のような状態になってしまっています。
チェルノブイリで壊れた原子炉はたった1基ですけれども、福島第一原子力発電所では少なくても1号機2号機3号機という3つの原子炉が溶け落ちてしまっているわけで、これから何十年、あるいは何百年という期間に渡って、放射能を閉じ込めるという作業をしなければいけません。
福島第一原子力発電所の事故というのは、広島原爆の何100発分というような放射性物質を環境にまき散らし、今現在も撒き散らし続けている事故だということです。
もちろん日本の東北地方関東地方は猛烈に汚れているわけですけれども、日本というこの国は北半球温帯という地域に属していて、上空では偏西風という強ーい西風が吹いています。そのため福島から吹き出してきた放射性物質は偏西風に乗って太平洋の方向に流れていって、北アメリカ大陸の西海岸を強く汚染しています。
一つの事故がその現場だけではなくて地球全体に及ぶような汚染を引き起こす。
というようなものも、やはり原子力発電所以外には起きないはずだと思います。
放射線管理区域というのは普通のみなさんが立ち入ることすら禁じられる場所ですし、私のような職業的な労働者であっても、中に入ったら最後水すらが飲めないという、そういう場所です。
日本が法律を守るというのなら、およそ1万4000平方キロメートルに及ぶ場所を放射線管理区域にしなければいけないほどに汚れていると、日本国政府自身が地図に示しているのです。
しかし日本国政府は原子力緊急事態宣言を出して、「今は緊急事態だから法律を守らなくてもいい」ということにして、人々をこの汚染地に捨ててしまったのです。
そういう汚染の中で今、福島を中心にして、人々が被曝をし続けているわけですが、なんとか被曝を少しでも少なくしたいと言って、自分の家の周り、学校の校庭、とかいうところから、土を剥いで集めています。もちろん田畑の土を全部剥ぎ取るということもできませんし、山の線を剥ぎ取ることもできないのです。
ごくごく一部の汚染を剥ぎ取って、こういう袋に詰めて積み上げてきています。何千万袋というような袋が、汚染地帯にこんな形で積み上げられて、どんどんどんどん、今現在も増えてきてしまっています。
しかしこれは袋ですので、どんどんどんどん破れてきます。実際にはこのように一度は詰めたつもりでも、中から植物が袋を突き破って外に出てくるということになっていて、この袋をこれから一体どうやって管理をしていくのか、ということは今の課題になっていますし、これから何十年も何百年もこういう放射能に向き合わなければいけないという状態になっています。
事故は残念ながら起きてしまいました。そしてその日に原子力緊急事態宣言というのが出されて、4年以上経った今も緊急事態宣言は解除されていないのです。だからこそ、日本の法律では許されないような場所に「人々を捨てる」というようなことも今現在行われているのです。
日本の国家にとって一番大切なことは、自分が出した原子力緊急事態宣言というものを撤回できるように最大限の努力をするということだと私は思いますし、オリンピックなどと浮かれている場合では今はないのだと思います。
ご質問では「私が安倍さんだったら」という仮定でご質問をいただきましたが、もし、私が安倍さんであれば、まず真っ先にやることは「子供たちを汚染地帯から避難させる」ということです。
人類が放射線を発見したのは1895年で、それ以降たくさんの放射線被曝と健康への影響が積み重ねられてきました。その結果、現在の学問の到達点としては、「被曝というものはどんなに低いものであっても必ず健康に影響がある」というのが現在の学問の定説なのです。
だからこそ、この地球上でほとんどすべての国に「放射線の被曝に関する法律の規制がある」という、そういうことになっているわけです。
日本の場合も、「被曝には危険が伴うから、一般の方々は1年間位1mSvしか被曝をしてはいけない」という法律があるわけだし、私のような放射線業務従事者という労働者であっても、「1年間位20mSv以上の被曝はしてはいけない」ということを法律で定めているわけです。
それが全く間違いで「被曝は健康にいいんだ」というのであれば、法律でそういう制限を撤廃するというのがまずはじめにやるべきことだと私は思いますし、世界中の国々がそういう法律を決めている以上は、法律の定めによって国をきちんと運営するというのが、国の責任だと私は思います。
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書き起こし終わり
上記の主張をする人がいる一方で、下記のようなサイトも存在します。
福島安全宣言!:福島の放射線はもう安全です。除染も必要ありません。
このサイトの主な主張は次の通りです。
・福島の放射線は安全です!
・20キロ圏内はすでに帰還が可能な安全レベルになっています。
・原発事故による放射能で亡くなった人は、一人もいません。
・もう避難し続ける必要はありません!
・除染は必要ありません!
・日本政府は「福島安全宣言」を出してください。
日本人の多くは小出氏の意見よりも、「福島安全宣言」を主張するサイトに共感を寄せるのではないでしょうか?その方が精神的に楽ですから・・・
最後に:
福島原発事故に関しては、この記事で紹介した例以外にも様々な情報が存在します。「事実に立脚しているか」「論理的か」などが情報の信頼性を判断する際の基準となります。
最終的には、自分の考えは自分で決めねばなりません。
以上