【死刑基準】法廷ドラマを観て死刑制度の是非を考えてみた。

出典:朝日新聞

出典:朝日新聞

 現在の日本では、死刑制度に賛成する人が8割を超えます。この割合は時代により変化しますが、貧富の格差が増え、治安が悪化し、人心が荒んでいる時ほど高くなる傾向にあります。しかし、法務大臣が死刑執行命令書にサインすることを拒否することが多いため、年を追うごとに死刑囚の数は増えています。法務大臣が責任から逃げ回るということは、現行の死刑制度に自信が無い証拠ではないでしょうか?

図(死刑執行状況の推移) 出典:朝日新聞

図(死刑執行状況の推移) 出典:朝日新聞

 ほとんどの人が死刑に賛成するのに、肝心の死刑執行が進んでいない状況には批判が少ないようです。死刑賛成とはいっても、熱心に支持している訳ではないのでしょう。

 死刑制度については、私が運営するこのブログでも記事を書いたことがあります。

【冷静に考えてみよう】死刑賛成派が日本で多数を占めるのはなぜか?死刑制度を廃止すべき根本的な理由は何か?

 上記リンクの記事に対しては、たくさんのコメントを頂いています。当然、死刑制度に賛成する人からの意見がほとんどを占めています。「人を殺したら、死をもって償うのが当然だ。被害者側の感情を考えろ。」というのが主旨ですね。

 最近、死刑制度を扱う法廷ドラマを見ました。ドラマとしても素晴らしいですが、死刑制度を多様な観点から捉えており、非常に参考になりました。

死刑基準

 上記リンク先から、本ドラマの紹介文を引用します。

「司法試験に合格しながら大学法学部の講師となった水戸裕介(山本耕史)、死刑廃止論者の弁護士・大伴浩二郎(小澤征悦)、検事の永瀬麻梨子(戸田菜穂)。3人は共に司法を学び、それぞれ死刑に対する考えを持っていた。ある日大伴の妻が殺害され、彼に恨みを持つ鯖江申三(柏原崇)が逮捕される。大伴は今までの主張を覆し、鯖江の死刑を求める。このことをきっかけに水戸は弁護士に転身。しかし最初に弁護することになったのは鯖江だった。」

 実際に観て頂くのが一番良いのですが、現在の司法制度について下記の論点を提示してくれています。

・被害者側遺族の心のケアや補償が不十分である。
・警察・検察側はすべての証拠を独占しており、都合の悪い証拠を隠し、それが冤罪を生む可能性がある。
・冤罪で死刑にされる恐ろしさについて。
・冤罪の発生に伴い、真犯人が野放しになる問題。
・凶悪犯の死刑判決を回避することで名を上げることが目的化している弁護士の存在。
・法律を扱う人間は、人の心に配慮しなければならない。
・死刑判決を下す時の、裁判官の苦悩。
・死刑にするかどうかは単純に殺した人数だけではなく、動機・方法・被害者感情など複数の要素が考慮されて決められる。
・世界の潮流は死刑廃止であり、死刑が凶悪犯罪抑止につながっているという統計データは無い。
・人を殺したら死をもって償うしか方法はないと、ほとんどの日本人が考えている。

 死刑制度には関心があるけれど本を読んで勉強する気はない、という人にオススメのドラマです。死刑制度に対して問題意識を持つきっかけになると思います。

 この「死刑基準」という法廷ドラマで扱っていない問題があります。冒頭で、幼女誘拐殺人・死体遺棄の犯人が裁かれるのですが、この犯人を生んだ原因や対策については言及されていません。これは、司法制度の中では解決できませんから、一般国民・政治家が関心を持って議論すべきことでしょう。

 死刑制度は被害者側の感情に応えるという機能を持っていますが、その一方で加害者の存在を社会から消すものでもあります。加害者は特殊な人間であり、社会に害悪しかもたらさないのだから抹殺してかまわないという暗黙の社会的合意があります。しかし、その合意は間違いです。加害者は偶然の突然変異で発生するのではなく、政治・社会システムの欠陥・矛盾などから生まれるのです。100%加害者本人の責任にして、その存在を抹殺して済ませていたら、人類はいつまでたっても進歩せず、同じ間違いを繰り返し続けることになります。対症療法には限界があるのです。

 大量殺害事件がテレビで報道されると、視聴者の犯人に対する憎しみが沸き起こり、死刑制度賛成の世論が高まります。実は、このパターンを一番喜んでいるのは社会を支配する権力層なのです。犯人個人にのみ批判が集まっているうちは、権力者は安泰です。権力者が一番恐れるのは、犯人を生み出した社会的背景や政治システムに国民の関心が向くことです。内閣支持率が落ち投票行動に反映されたら、権力基盤が脅かされるからです。

 凶悪犯の死刑が執行されて溜飲を下げるだけでは、進歩はありません。日本が先進国だと言うならば、いつまでも現状に甘んじていないで、その先を行くべきでしょう。被害者側の心のケアや補償をしっかり行うとともに、加害者は生きてその罪を償ってもらう。社会状況が改善されずに凶悪事件が頻発し続ければ、受刑者の数が増大し、問題が目に見えやすくなります。刑務所施設拡張やその税金負担増加、さらには、受刑者の更生状況にも関心を持たざるを得なくなります。殺してしまったら関心は持てないのです。

 死刑に対するEUの考え方は、「いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である。人権の尊重は、犯罪者を含めあらゆる人に当てはまる」というものです。犯罪者の人権を尊重するという考えは、日本ではまだまだ受け入れられていません。しかし、死刑という国家による殺人は「臭い物に蓋をする」ということであり、事件の再発防止には何の役にも立たないということを明記したいと思います。

以上

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