2016年3月24日、5人の著名な日本人ジャーナリストが外国特派員協会で記者会見を行い、日本政府の言論弾圧を非難し、報道機関の情けない自己検閲を指摘しました。
国際的に大きな関心を持たれているにも関わらず、NHKは会見に姿を見せませんでした。日本のメディアでこの件をきちんと報道したのは一部に過ぎず、国民の関心も低いままです。
海外メディアでは、AP通信社が報じていますので、下にリンクを貼ります。( )内は私の邦訳です。
「Japanese journalists allege government pressure on media」(日本政府の言論弾圧を日本人ジャーナリストが告発)
事の発端は、高市早苗総務大臣の問題発言です。真意を要約すると、
「政府批判をするメディアは許さない。逆らったら、電波を停止して放送できないようにしてやる。」
、ということです。高市さんは色々と言い訳をしていますが、要は恫喝が目的です。日本は未熟な民主主義国家なので、総務大臣がこんな発言をしても政権が転覆しないのです。そもそも、報道機関に監視される立場の権力側が、放送免許を付与する立場にいること自体、異常です。このような異常なシステムがなぜ放置されているのか、不思議でなりません。
以下、高市早苗総務大臣の恫喝発言を解説していきます。高市さんは、2016年2月8~9日にかけて、次のような発言をしました。
・「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるか」という質問に対して、「1回の番組で電波停止はありえない」「私が総務相のときに電波を停止することはないが、将来にわたって罰則規定を一切適用しないことまでは担保できない」と述べた。
・「行政指導してもまったく改善されず、繰り返される場合に、何の対応もしないと約束するわけにはいかない」と述べた。
・「放送法に基づく業務停止命令や電波法による電波停止命令については法律に規定されている」「命令を出すのは法律に違反した放送をしたことが明らかで、同一の事業者が同様の事態を繰り返し、再発防止措置が十分でないなど、非常に極端な場合だ」という見解を示した。
安倍政権の批判をする数少ない人間を、何としてでも完全に抹殺してやる、という執念を強く感じます。高市さんの言ってることは、なぜ間違っているのでしょうか?
まず、日本国憲法の第21条を以下に記します。
1.集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2.検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
表現が不自由な社会では民主主義が成り立ちませんから、非常に重要な条文です。第21条の理念を実現するために、放送法は制定されました。それでは、放送法の第1条を以下に記します。
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
第一条の二項を解り易く言い換えると、
「特定の政党や権力者は、事実の隠蔽・歪曲をするために放送事業者へ圧力をかけてはならない」
、ということです。放送事業者ではなく統治権力に対する戒めなのです。
続いて、放送法第三条と四条を記します。
(放送番組編集の自由)
第三条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
放送法の第四条は、
「実権をもつ与党だけでなく、立場の弱い野党の反対意見も取り上げること」
「権力側にとって都合の悪い事実であっても、きちんと調査報道すること」
、と解釈しなければいけません。報道機関は権力の監視という義務を果たしなさい、ということです。
従って、立憲主義や民主主義を破壊する安保法制への批判など、安倍政権の独裁・暴走を報道するのは健全であり、放送事業者の義務なのです。
安倍政権の批判をせず、政府発表をそのまま垂れ流すだけの事業者は放送法違反です。高市大臣は、放送法違反行為を手助けしたいようです。
安倍政権にとって、政権批判をする放送事業者の存在はとても目障りです。テレビは大衆の意見形成に大きな影響力を持っているので、たとえ少数であっても放置すれば安倍政権の支持率が下がる恐れがあります。膨大な政治的無関心層に問題意識を持たせ、投票率が上がってしまうかもしれません。2016年には国政選挙が予定されており、安倍政権はとても神経質になっているのです。
実質的には権力基盤がぜい弱な安倍政権は、苦し紛れに放送法第四条を次のように解釈することにしました。
「政府の意向に沿う報道こそが公平である。放送¬局が政権批判をしたら、総務大臣はそれをやめさせる権限がある」
実際に2015年11月10日の衆議院予算委員会で、高市総務相と安倍晋三首相は、上記のように解釈していることを明らかにしています。しかし、この解釈は強引過ぎますし、間違っています。なぜならば、日本国憲法第21条に反するからです。
もう一度、日本国憲法第21条を記します。
1.集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2.検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
「政府の意向に沿う報道こそが公平である。放送局が政権批判をしたら、総務大臣はそれをやめさせる権限がある」という解釈は、事後検閲の容認に当たります。権力者に文句を言った奴は始末しても構わない、という考え方は憲法違反です。しかし安倍政権の面々は、様々な報道圧力を繰り返してきました。実は、安倍政権の側こそが、放送法違反の常習者なのです。
安倍政権から報道圧力を受けているメディア(特に大手)は、当然、安倍政権の放送法違反行為・憲法違反行為を理解しているのですが、なぜか抗議をしようとしません。いくらサラリーマンとはいえ、ジャーナリストとしての矜持をまったく持っていないのは情けない限りです。独裁政権のご機嫌を取るだけの報道機関に存在価値はありません。
以上