「公平・中立」な報道とはどのようなものでしょうか?「偏った」報道とは何でしょうか?まずは、例を挙げて行きましょう。
1)総選挙前に自民党がテレビ局に送り付けた要求文書
2014年12月の国政選挙前、冒頭写真で示す文書が自民党から主要テレビ局へ送り付けられました。「公平・中立」な報道を求める内容なのですが、真意は次の通りです。
自民党:
「これから大切な選挙期間が始まる。くれぐれも自民党に不利な報道をしないように気を付けてくれ。自民党が有利になる報道(→公平・中立な報道)を心掛けろ。」
この場合の「公平・中立」とは、政権側の言い分だけでなく批判側の意見も取り上げろ、という意味ではありません。政府批判をしたら「偏っている」と判断されてしまうのです。
2)旧日本軍により性的奴隷にさせられた被害者の報道
朝日新聞の調査報道記者であった植村氏は、第二次世界大戦中に旧日本軍の慰安所で女性たちが強制的に働かされていたかどうかを検証しました。性的奴隷にされた韓国人被害者たちの話を初めて明らかにしたのです。
反動政治家の意を受けた低俗紙は植村氏のことを、「韓国人の嘘をばら撒く売国奴」、と呼んでいます。「韓国人によるでっち上げだ」というのも常套句ですね。反動勢力にとっては、性的奴隷の被害者の証言を取り上げた報道はすべて「偏っている」のです。彼らにとって、「公平・中立」な報道とは次のようなものです。
「天皇の軍隊が行ったのは自衛のための戦争であり、侵略戦争では断じてない。日本軍の行動を邪魔する者は皆テロリストだ。我々は何も悪いことはしていないので謝罪する必要はない。」
3)東京電力の責任を論じた記事
福島原発事故を起こした東京電力の責任問題について、私はブログで取り上げたことがあります。下記リンクをご参照ください。
【巨大犯罪!】福島原発事故で誰も裁かれないのは異常だ:ジャパンタイムズの記事内容紹介
この記事に対しては批判的なコメントも寄せられています。例えば、
「福島原発事故は犯罪じゃない。批判ばっかりせずに冷静で中立な視点を持て。」
「原発事故当時に政権を担っていた民主党の責任であり、安倍政権は尻拭いをさせられているだけだ。」
自民党政治家・官僚・メーカー・御用マスコミ・御用学者で構成される原発マフィアが聞いたら、泣いて喜びそうなコメントですね。彼らマフィア達の立場に立った記事こそが「公平・中立」な記事だ、と言いたいのでしょう。
4)日本における人種差別問題に一石を投じた記事
肌の色が黒い人に対する人種差別が日本にも存在するのは常識だと私自身思ってきましたので、下記リンクの記事は素直に受け入れてもらえると予想していました。
【不思議?】ハーフのミス日本が、日本のメディアからほとんど無視されているのはなぜか?
しかし実際には、人種差別があることをどうしても受け入れられないため、人種差別の原因や背景を考えるところまで行き着かない人が多いようです。
「日本のメディアは彼女のことを無視していない。十分取り上げているよ。」
「元々、ミス日本はマスコミで大きく取り上げられてないんだよ。彼女だけじゃない。」
「彼女に魅力がないからじゃない?」
「日本のメディアが無視しているんじゃなくて、外国のメディアの方が騒ぎ過ぎなんだよ!」
「海外メディアは差別ネタで数字を稼いでいるだけだ。」
「彼女、日本の悪口言ってるから批判されるのよ。」
「差別してる人が皆無とは言わないけど、そんなのごく一部よ。」
「日本ではハーフのタレントがたくさんテレビに出ている。だから差別はない。」
「人種差別なんて、どの時代でもどの国でもあるんだよ。」
「この記事は、人種差別の例として不適切だ」
上記に限らず、批判コメントはいくらでも思いつくでしょう。しかし、生まれてからずっと差別に苦しんできた宮本エリアナさんの声に耳を傾けようとする姿勢が、これら批判コメントからは全く感じられませんでした。
宮本エリアナさんが訴えたいことが記載された別の記事を以下のリンクで紹介します。ハフィントンポストの日本版です。
宮本エリアナさん「人種への偏見、日本と世界からなくしたい」【ミス・ユニバース日本代表】
上記リンクの記事は差別される側の重要な視点を提供してくれています。しかし、日本人の中には感情的に受け入れられず「偏った記事だ!」と思う人も多いはずです。宮本エリアナさんは彼女の立場で感じていることを堂々と述べれば良いのであり、「公平・中立」を期すために別の立場の人の意見をわざわざ併記する必要はありません。「お前の視点は偏っている。公平・中立を心掛けろ」と言うのは、彼女の意見を抹殺したい人です。
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さて、以上に例を4個挙げましたが、「公平・中立」という綺麗な言葉が持つ胡散臭さが理解できたでしょうか?人の意見を批判する時に「公平・中立」を要求する癖があるのはどのような人なのか箇条書きにしてみます。
・利権を守りたいだけの権力者
・その権力者の取り巻き
・権力者にゴマを擦っていれば自分の身が守られると勘違いしている庶民
・視野が狭く柔軟性が無く、自分と異なる意見を許せない人
・その他
彼らの言うとおりに素直に従っていると社会が劣化し、同じ間違いを何度も繰り返すことになります。人の生命をも危険にさらします。この記事で取り上げた4つの例をもう一度思い出してみて下さい。
権力者や立場の強い者が、少数派・立場の弱い者を抑圧する時に「公平・中立」という言葉がたくさん使われてきました。「公平・中立」に対しては十分に警戒する必要があると思います。
以上