今回は、TBSが敢行したシリア:アサド大統領への単独インタビューを紹介します。以下のリンクでビデオが見られます。
以下に、インタビューの様子を書き起こししました。アメリカの支配下にある大手マスメディアからは得られない貴重な情報がたくさんあります。たまには、悪人扱いされてしまった側からの意見を拝聴するのも、バランスをとるために必要だと思います。参考にしてください。
書き起こし始め
************************
(星浩キャスター)
「現在シリアで起きていることやシリアの未来について大統領がどのように見ているかうかがう機会をいただきありがとうございます。まずお聞きします。アスタナでの和平協議が近くありますが、この和平協議に何を期待しますか?」
(シリア アサド大統領)
「まず初めにようこそダマスカスへ。この戦争が始まって以来初めて日本の視聴者に向けてお話できることをうれしく思います。アスタナ和平協議について期待はありませんが、協議がシリアの全ての党派の対話の舞台になってほしいとの希望はあります。最初の段階では優先事項のシリア各地の停戦合意について集中的に話し合うでしょう。人命を守り人道支援をシリアの様々な地域に行き届かせるためです。この和平協議が何らかの政治対話になるかはまだ明らかではありません。まだ誰が協議の参加者になるか分からないからです。シリアの和解プロセスに参加させるための政府とテログループ間の対話になるでしょう。停戦を成立させ、テロリストに武器を放棄させ政府から恩赦を与える― 現時点で期待できるのはそれだけです。」
(星浩キャスター)
「和平協議で移行政権について話し合う用意はありますか?」
(アサド大統領)
「話し合われる議題は、全て憲法に基づくべきです。これは政府と反体制派、あるいは政府とテロリストグループの問題ではない。シリアの未来を決める権利を持つ全てのシリア国民の問題だからです。私たちの憲法には移行政権なるものはありません。憲法に基づきシリアの異なる党派や様々な政治集団を代表する通常の政権を作ることはできます。これが私たちの提案です。私たちが国民統一政府と呼ぶ政権はシリア内外の全ての党派が参加できます。そのような政権ができた後に議会選挙について話し合える。その議会選挙の結果に基づき、また新たな政権ができるのです。」
(星浩キャスター)
「米新大統領ドナルド・トランプ氏がまもなく就任します。トランプ氏に何を期待しますか? どのような政策変更を期待しますか?」
(アサド大統領)
「彼は数少ない政治経験のないアメリカ大統領の一人です。過去の大統領のほとんどが政治的な職業や地位に就いていました。彼はそうではありません。さまざまなメディアを見ますと、アメリカのメディアでさえそうですが、彼のビジョンを知らないために“予測できない人物”とみています。判断する上で根拠となり得るのは選挙期間中の彼のレトリックだけです。もしその中で良いものを挙げるとしたら、『テロとの戦い』という我々の優先課題です。トランプ新大統領は『イスラム国』との戦いが彼の優先課題だと言いました。もちろん『イスラム国』はテロの1つの側面1つの組織にすぎません。『イスラム国』について話すならヌスラ戦線についても話すべきです。シリア国内にはたくさんのアルカイダ系グループがいます。トランプ氏が『イスラム国』と言ったときテロリズムのことを言ったのだと思います。トランプ氏が優先課題としてあげたことは大変重要だと思います。我々は新政権が、テロについてのレトリックを偽りなく実行してほしいと期待します。それはシリアだけのためではありません。テロリズムはシリアだけの問題でなく中東の、そして世界の問題だからです。アメリカの新政権が、テロと戦うための現実的な協力関係を誠実に築いてほしい。もちろんその協力関係にはシリアが含まれます」
(星浩キャスター)
「以前のインタビューで大統領はワシントンDCのロビー団体に言及したが、ロビー団体が政策変更の障害になっていると思いますか?」
(アサド大統領)
「主要メディアとさまざまな組織・ロビー団体が一つの組み合わせになっています。彼らは変化は必要ないと考えていてジョージ・ブッシュ政権発足の2000年以降、17年近く続いたアメリカの破壊的な政策に利害関係があるからです。直接的にせよ代理戦争にせよ、アメリカは戦争ばかり起こしてきました。そして、さまざまな企業やロビー団体、メディアは利害関係を持っているのです。ほとんどの場合、経済的な利害関係でしょう。ですから新大統領の政策のうちテロとの闘い、他国の主権の尊重や、ロシアや中国などとの関係改善を通じた国際関係の緊張緩和など、彼らがことごとく邪魔をするのは明らかです。」
(星浩キャスター)
「イスラム国との戦いの過程で、トルコやクルド、アメリカと協力する考えはありますか?」
(アサド大統領)
「ます初めに素直に見れば、イスラム国はアメリカの管理下で生まれた。2006年ISISを名乗る前のISはイラク国内だけに存在していました。シリアで紛争が始まるとシリアとイラクのイスラム国を名乗り、後にトルコはイスラム国を支援しました。イスラム国は石油を輸出し資金を得て戦闘員勧誘にシリアの油田を使ったが、トルコはこの石油の密輸に関わっていました。エルドアン大統領自身もイスラム国に関与し共犯関係にあります。ですから、トルコやアメリカがイスラム国との戦いに参加するとは期待できない。あからさまな例としては、数週間前アメリカのドローンによる監視の中、イスラム国がパルミラを再び制圧したことが挙げられます。彼らは砂漠の中を抜けて来てパルミラを占領したのです。私たちが話をしている今日もイスラム国はシリア東部デリゾールを攻撃しています。アメリカ人はイスラム国を止めるため何もしない。ここはいわゆる有志連合が一年半活動してきた地域です。彼らは何も成し遂げていない。真剣ではないからです。トルコのエルドアン大統領はムスリム同胞団ですが、彼は本能的先天的にイスラム国やアルカイダに同情的で、彼らは同じ思想を持っていてエルドアン大統領は彼らから離れることができないのです。イスラム国やヌスラ戦線と戦っていると見せるためエルドアン大統領はいくつか工作を行っていますが、実際は彼は日々それらの組織を支援しています。彼らの支援なしにそれらの組織は生き残れないのです。」
(星浩キャスター)
「アレッポなどでシリア軍とロシア軍は住宅街や病院を空爆していると批判されている。そうした人的な被害はアレッポ制圧のため避けられなかったのか?」
(アサド大統領)
「爆撃や戦争犯罪などで、ロシアやシリアを非難しているのは、アメリカやイギリス、フランス、トルコ、カタール、サウジアラビアなどです。メディアや政治、武器・資金・物流を通じテロリストを支援した人々には、シリア一般市民のために叫ぶ権利はありません。彼ら自身が、罪のないシリア市民が過去6年間殺されてきた原因だからです。それが第一です。憲法や法律、シリア国民に対する道徳的な責務からくる政府の役割は、国民をテロリストから解放することです。国の一部がテロリストの支配下にあって、人々が殺され、全てが破壊され、ワッハーブ主義という憎悪に満ちた思想を市民に押しつける中、その国の政府が何もせず、ただ見ているのは許されると思いますか? 死傷者について話をするなら、全ての戦争に死傷者がつきもので、全ての戦争が悪い戦争です。全ての戦争に流血や殺りくがあり、どんな戦争にも良い戦争はない。自明のことです。もしテロと戦うために戦争をすれば、残念ながら死傷者が出ます。我々は死傷者をなくすため最大限のことをしました。しかし一般市民のためにと叫ぶ人たちは、シリアやロシアが一般市民を殺しているとの一片の証拠でも提出しましたか? もう一つの問題は、道徳的に政府が自国民を殺すことがありえますか? もし我々が自国民を殺していたら、6年間、政府として、軍として、大統領として持ちこたえられますか?論理的ではないし現実的でもない。我々がここにいるのは国民の支持があるからです。しかし結局のところ必ず死傷者が出ます。この戦争をできるだけ早く終わらせたいと願っています。それがシリアの人を救う唯一の道です。」
(星浩キャスター)
「シリア軍は塩素ガス爆弾を使用した疑いが指摘されています。そのことは否定しますか?」
(アサド大統領)
「化学兵器のことをおっしゃっているのだと思います。化学兵器というのは数時間で数千人を殺害します。そのようなことはこの戦争が始まって以来、シリアでは起きていません。最も重要なことは道徳的に政府として、そのようなことはしません。申し上げたように、自国民を殺したり大量破壊兵器を自国民に使うというのは不可能です。これはさらに重要ですが、2013年に我々は化学兵器を禁止する条約に署名し、それ以来、我々は化学兵器を放棄し、すでに保有していません。実際にはテロリスト側がそのような兵器を使っている。最初は2013年でした。2013年春には国連に調査団を派遣するよう要請しましたが、アメリカが我々の要請を妨害したのです。アメリカは、調査団がシリアに派遣されれば、テロリスト側が塩素ガスをシリア軍兵士に使ったとの証拠が見つかるとわかっていた。私は、シリアに関する西側のストーリーを反映する指摘を完全に否定します。それは、シリア政府やシリア軍を悪者に見せるための手段の一部です。」
(星浩キャスター)
「小さい子供を含む何百万人もの難民や国内避難民がいます。何十万人もの死者が出ています。大統領としての責任をどう考えますか?」
(アサド大統領)
「もちろん、難民のことを言えばそれは悲劇です。特に子どもたち小さい子どもたちや若者、彼らには何の罪もありません。今回の戦争とは無関係です。どこに所属するかにかかわらず、実際子どもには政治的党派性もない。何の罪もないのに誰よりも代償を払わされている。あなたの言う悲劇は我々が日々経験していることです。毎日こうした感情と共に生きているからこそ、我々は政府当局者として問題の原因であるテロリストらを排除し、シリアに平和と安定を取り戻すため全力を尽くそうとしているんです。それこそ、シリア国民が大統領に問うことなんです。戦乱で苦しんだ全てのシリア人に同情します。でもシリア国民が問うのは私がどう思っているかではありません。私が何をするかなんです。我々がいつ、あのテロリストらを駆逐するかなんです。最も重要で欧米や国際社会の多くが触れない面があります。難民問題の一部はテロリストらに関係するだけでなく、欧米やその同盟国によってシリア国民に課されている経済制裁にも関係している。この経済制裁は政府に対して効力を発揮したのではありません。シリア市民一人一人の生活に影響を与えたのです。多くの国民が国を離れたのはテロリストからの脅威があるからだけでなく、普通の暮らしに必要な基本的なものを手にすることができないからでもあります。食べ物、教育、医療、何でも、もう手に入らない。だからシリアを出て、どこか別の場所で、誰もが求める最小限の暮らしをしている。」
(星浩キャスター)
「和平プロセスの中でそれが和解に資すると判断した場合、辞任も選択肢として考えますか?」
(アサド大統領)
「大統領の去就は国民全体の問題です。一人一人の国民に関係します。シリアでは、大統領はシリア国民から直接、選挙で選ばれるからです。政府の権利でも反対派の権利でもありません。シリア人一人一人の権利です。なので、大統領の去就を決められるのは投票箱だけです。大統領に辞めてほしい人は投票で『彼はいらない』と意思表示すればいい。世界中どこでもこれが民主主義というものです。これは、反政府派や外国と話し合うことではありません。大統領の去就はシリア国民の問題で憲法とも関係することです。選挙、あるいは任期満了前の選挙―現在検討されてはいませんが―それをやって初めて私の去就について語れるのです。これは私の問題ではないんです。大統領として私は困難の時期には国を助けねばなりません。逃げ出したり、『私は去る、国民はそれぞれ自分でなんとかして』と言うのではなく、そんなことは解決にはなりません。困難の時期には大統領はかじ取りをし危機に対処すべきです。危機が終われば大統領は続けたいとか辞めたいとか言ってもいい。その時、シリア国民らが大統領に『続けろ』あるいは『辞めろ』と言うでしょう。」
(星浩キャスター)
「和平シリアの再建について日本にどんな役割を期待しますか?」
(アサド大統領)
「日本からの客人に対して率直に申し上げましょう。何十年も前に国交を持って以来、日本はシリアも含むさまざまな国々の発展に、インフラ支援などの分野でとても重要な役割を果たしてきました。日本は中東地域におけるさまざまな問題で公平さを保ってきました。日本は常に国際法を重視してきたが、今回のシリア危機の初期に、日本は初めてこうした慣例を破り、シリアの大統領は辞任すべきだと言った。これは日本の人々の価値観・倫理観に基づいたものだったか? 絶対に違います。日本の市民がどれだけ道徳を重視する人々か、みんな知っています。これは国際法にのっとっているのか? それも違います。我々は主権国家であり、誰が辞めて誰が残るべきなどと言う権利は世界中の誰にもない。残念ながら欧米社会と歩調を合わせたものでした。日本はシリアへの経済制裁に加わりました。日本はかつてシリアの人々を支援してくれた。シリアへの禁輸措置は、日本の人々の利益や価値観、日本の法律や憲法と関係するのでしょうか。私はそうは思いません。日本は在シリア大使館を閉じ、シリアの現状を見ず、どう貢献するのか?政治の分野において日本は、シリアと関係を絶った多くの欧米諸国と同様に状況が見えていない。だから日本は何の役割も果たせない。何が起きているか知らないのだから。日本が得ている欧米諸国から情報は、我々からすれば馬鹿げたものです。シリア再建と言うが、制裁を科しながら再建を語ることはできません。一方の手で食べ物を与え、もう一方で取り上げるようなものです。つまりこれは日本の政治の問題で、日本は国際法に立ち返らねばなりません。我々は主権国家で、日本は常にシリアを尊重してきました。世界で日本を際立たせたその立場に日本が戻ることを期待します。それでこそ日本は和平やシリアの復興で重要な役割を果たし、人々を支援することができるでしょう。ほとんどの難民は、ドイツやフランスで『歓迎します』と言っほしいわけではないんです。難民たちは自分の国に帰りたい。行った先の国で支援してほしいのではなく、シリアで支援してほしいのです。これこそ、我々が考える今後の日本の役割です。我々が過去数十年間知っていた姿に日本が戻ることを期待しています。」
(星浩キャスター)
「ご存知のように、日本は70年前、国を再建した経験があるので、シリアの再建にもアドバイスができると思います。」
(アサド大統領)
「もちろんです。そうだといいです。」
(星浩キャスター)
「日本人のジャーナリスト安田純平氏、私の友人でとても能力のある人ですが、2015年6月からシリアで拘束されたままです。彼の所在や置かれている状況について何か情報はありませんか?」
(アサド大統領)
「今のところありません。彼について何の情報も持ち合わせていません。気の毒に思いますし、我々シリア人は彼の家族の心痛をお察しします。たくさんのシリア人もこの戦争の中、行方不明になりました。彼の家族の気持ちを理解し気の毒に思います。もし我々が何か情報を持っていたら、あなたにお伝えしたことでしょう。」
(星浩キャスター)
「彼は、ヌスラ戦線に捕らわれているのです。」
(アサド大統領)
「彼の情報を得るのに役立つのはトルコだと思います。トルコはヌスラの監督役ですから。トルコは、情報機関や政府がヌスラの全ての情報を持っているはずです。」
(星浩キャスター)
「日本政府から、この件でシリア政府にコンタクトは?」
(アサド大統領)
「残念ながらありません。日本の市民であるこのジャーナリストの件も含めて、日本政府とシリア政府の間には一切のコンタクトがありません。」
(星浩キャスター)
「日本はアメリカ主導の連合の一員だと思いますか?」
(アサド大統領)
「シリアについてですか?」
(星浩キャスター)
「ええ」
(アサド大統領)
「アメリカを中心としたその連合が何を成し遂げたでしょうか。何も成しとげていません。過激派組織イスラム国は、連合の空爆開始後、勢力を拡大してきた。率直に言ってこの空爆は外面だけの空爆でした。2015年9月ロシアのイスラム国への軍事行動で初めてイスラム国勢力は縮小し始めた。アメリカ主導のあの連合は何も成し遂げていません。イスラム国と戦っていたシリア軍の兵士を殺害し、シリア独立以来70年間築き上げたシリア人のインフラを破壊しました。油田、学校、橋、製油所・・・何もかもです。これが(アメリカ主導の)あの連合が達成した唯一のこと。残念ながら―」
(星浩キャスター)
「シリアの復興にどれくらい時間がかかると思うか?タイムテーブルは?」
(アサド大統領)
「この危機が終わる前から我々は再建を始めています。まずはダマスカス郊外から、そしてアレッポや他の街でも、破壊された郊外を現代的なものに建て替える形で再建する計画です。この危機が終わるのを待つことはしません。すぐに始められます。シリアの人たちは国を再建する決意を持っています。我々がシリアを作ったのです。外国人が作ったのではありません。シリアの技師が労働者がシリアの資源・物資を使い、友好国の技術面でなく資金面の支援を得て作ったのです。我々にはシリアを再建する能力があります。資金もたくさん必要で時間もかかる。限られた財力の範囲内であってもシリア人一人一人が家を建てていくでしょう。在外シリア人、難民で余裕のある人は帰国したがっています。友好国のロシア・中国・イランも助けてくれます。他にも多くの国がシリア再建の協議を始めていて、資金面で支援が行われるでしょう。シリア再建のための材料はたくさんあるんです。時間が問題なのではない。再建・復興は時間がかかるもの。最も大切なのは、国を再建する能力があるかどうか、これについては心配していません。憂慮するのは、何年もイスラム国やヌスラ戦線の支配下に置かれた人の心をどう再建するかです。彼らの心は、憎しみに満ちたワッハーブ派の思考を植え付けられ汚染されています。彼らは死や殺人を見てきました。子供たちが罪のない人々を殺したこともあります。どうやってこうした心を再建し、元の状態に戻すことができるでしょう?これは危機が終わった後の大きな問題になってきます。」
************************
書き起こし終わり
以上