社内通訳に至る軌跡:元エンジニアの英語奮闘記録

第1章:はじめに

– 本書の目的と読者へのメッセージ

本書の主な目的は、私の経験を通じて英語学習や異文化コミュニケーションに関する知識や洞察を提供し、読者自身の語学力向上やキャリアに活かせるヒントや示唆を与えることです。

また、本書の読者としては、就職前の学生さん、サラリーマンとして働きながら英語学習を頑張っている人、言葉の壁に悩みながら国際事業を推進している当時者、などを想定しています。

本書を通じて、英語学習や異文化コミュニケーションに対する新たな視点を提供できたらと思います。

– 著者の経歴と学び

私は、1990年代の初頭に大学の理工学部を卒業後、30年以上にわたり日本に本社を置く大手機械メーカーで働いてきました。

しかし、性格的にも社内での出世には向かず、本業のエンジニアとしてもキャリアの限界を感じます。

そこで、学生時代から興味があった語学に焦点を当て、自身の英語力強化に邁進しました。

2020年1月の時点でTOEICで高得点(940点)を獲得し、基礎力は十分であることを確認しました。

中途採用で同僚となったアメリカ人との英会話を通じて、コミュニケーション能力を向上させることもしました。

その後、50歳を過ぎてから調達戦略部門に異動し、社内通訳者としての役割を担うことになります。

特に、インドのサプライヤとのやり取りを通じて、英語力の重要性や異文化コミュニケーションの難しさを痛感します。

しかし、その難しさを乗り越える経験を通じて多くの学びがあり、語学力を活かしたキャリア形成の可能性を見出したのです。

異文化コミュニケーションや英語学習における私の経験や洞察を通じて、読者にインスピレーションを与えられたらと思います。

第2章:言葉の力

– 言葉の重要性とその影響力

言葉は人間のコミュニケーションにおいて極めて重要な役割を果たします。

言葉は意思を伝達する手段であり、正確に伝えることができればビジネスを推進する力となり、誤解や衝突を避けることもできます。

多くの日本企業がグローバルに活動できているのは、日本語と英語の懸け橋となる通訳者・翻訳者の存在があってこそです。

懸け橋としての存在が失われた時、血液の流れは止まり、ビジネスは続行不可能となります。

英語が重要だということは分かっていても、実際には、日本人の99%は英語アレルギーです。

無意識のうちに英語を避け、色んな言い訳をしつつ、英語学習からも逃げるのが普通です。

でも、そんな人たちを責めることは出来ません。

言語構造的に英語と日本語は違いすぎるので、日本人にとって英語は、習得が最も難しい言語の一つだからです。

重要だけれども習得が難しい英語。

その厄介な英語が持つ影響力は絶大であり、上手く使えばビジネスの推進に役立ちますが、不適切に使えばトラブル要因となります。

ビジネス英語は、どの業界で、どんな場面で、誰に対して、何を議題にするかにより、用いる単語や表現は千差万別。

お互いの意図や真意を正確に伝えるだけでなく、敬語にも配慮しなければなりません。

同じ英語圏でも国が違えば、使うべき単語が変わってきたりするので、通じなければ都度確認する必要があります。

また、日本語は忖度や行間を読んでもらうことを前提とした表現が多様されますが、そんな内向きの論理は国際ビジネスでは通用しません。

居心地のいい日本国内でのコミュニケーションを超えて、言語の壁を乗り越えるために何をすればいいか?

その答えは、各当事者が自分で見つけ、判断し、実践で試し、試行錯誤を通じてブラシュアップするしかありません。

これは誰にでも出来ることではないので、もしノウハウを身に付けられれば社内での存在感が増し、他者との差別化により評価が上がることでしょう。

私は、英語学習者の社内的地位向上を切に願っています。

– 著者の言葉の壁に対する取り組みと成果

この節では、私が直面した言葉の壁に対する取り組みとその成果について詳しく探ります。

私はエンジニアをしてのバックグラウンドから出発し、英語学習への意欲を持ちながらも、初めはコミュニケーションにおける言葉の壁に直面しました。

しかし、その壁を乗り越えるために積極的な学習と実践を行い、コミュニケーション能力を向上させました。

具体的には、どのような学習方法や練習を行ったのか、またどのような困難や課題を克服してきたのかを明らかにします。

さらに、その努力の成果として得られた経験や洞察についても紹介し、読者が同様の壁に直面した際に役立つヒントやアドバイスを提供します。

1)文法

英文法はすべての基盤であり、文法の習得無くして先には進めません。

英会話場面でも、多少の発音の間違いは相手が意味を察してくれることはありますが、文法が滅茶苦茶だとお手上げということも珍しくありません。

私は英文法に関して悩んだことはありませんが、もしもご無沙汰で錆びついてしまっているならば、何でもいいので高校レベルの参考書を一冊復習することをオススメします。

2)リーディング

インプット無くしてアウトプットなし。

基本的な語彙や文法を抑えたうえで、書かれた文章の意味を理解できなければ、外国人とのコミュニケーションなど望むべくもありません。

正確に、かつ、早く英文を読んで理解することが重要です。

英文を読むときは前に戻らずに、そして、頭に日本語を思い浮かべず、英語を英語のままで理解できるようにしましょう。

リーディング能力を測るにはTOEICを利用するといいでしょう。

時間内で問題を解き終わり、リーディングパートで495点満点を取ることが目標です。

私の場合、TOEICの公式問題集を解きまくる以外に、英字新聞(ジャパンタイムズ)、心理学系の専門書、単行本、漫画、ラノベなど、自分が興味を持てる内容のものについて英語で書かれたものを読むようにしました。

日常的に英語に触れ、慣れることが重要なのです。

あと、分からない単語が出てきたら英英辞典で調べました。

英語ネイティブが持っている正しい感覚を身に付けるためにも、英英辞典の使用をオススメします。

3)リスニング

英会話をするにしても、そもそもインプットとしてのリスニングが出来ないのでは何も始まりません。

私が学生時代から取り組んできたリスニング練習教材を時系列で並べてみます。

NHK英会話、洋楽、イングリッシュアドベンチャー(ヒアリング教材)、TOEICリスニングパート、英語ニュースメディア視聴、洋画視聴、YouTubeの英語素材いろいろ、インド英語のリスニング教材・・

まあ、興味の赴くままありとあらゆることを試してきたのです。

みなさんが難しいと感じているであろうTOEICのリスニングパートは、実は易しい部類に入ります。

雑音のないクリアな環境下で、ネイティブスピーカーが、正しい文法で、標準的なフレーズを使って、比較的ゆっくりと話してくれるのですから。

しかも、TOEICの話の素材は、特定の知識の有無が、スコア上有利にも不利にも働かないように設計されています。

私は、TOEICで700点くらい取れるようになった後、英語のニュースメディアを視聴するようにしました。

プロのアナウンサーが喋っているとはいえ、やはりTOEICよりは難しいです。

とくに、アナウンサーがゲストを招いてインタビューする場面では、様々な出身国のゲストたちの発音に今でも苦労しています。

国や地方特有の訛り、口語的表現、文法が崩れていたりと、聞き取りを妨げる要因には事欠きません。

TOEICで900点を超える現在でも、英語の字幕を表示して、文字情報の助けも借りながら、ようやく真意を汲み取れることも多いです。

洋画の視聴は、さらに難易度が高いです。

私はアメリカの「デスパレートの妻たち」や「クリミナルマインド」をよく見ていましたが、事前に話の内容を知っていても聞き取れないところが多い。

何度も字幕で確認してからもう一度音声を聞いても、判別が難しいこともしばしば・・・。

とにかくリスニングに関しては、興味がある素材を使って、楽しみながら気長に取り組むのが良いと思います。

4)スピーキング

私が主に取り組んだスピーキング練習は以下の通りです。

TOEIC教材の音読、英会話フレーズ集の音読、職場での同僚アメリカ人との英会話練習・・・

いきなり人間を相手にする前に、実際に使いそうな英語表現を見つけ出し、繰り返し音読し、脳に浸み込ませる必要があると考えたのです。

自分で音読できる表現ならば、リスニングも簡単にできるものです。

私は運がいいことに、同僚にアメリカ人(男性、30歳くらい)がいたので、私との会話はすべて英語にしてくれるように頼みました。

3年半くらいの間、彼とは席が隣でしたので、英会話の練習相手には不足しませんでした。

闇雲に話しかけるのではなく、下記の方針でアプローチしました。

  • 雑談ではなく、目的やテーマをあらかじめ決める。
  • 想定される問答や、使いそうな英語表現を事前に用意する。
  • 彼との会話は、自分の準備や想定が正しいことを検証する場とする。
  • 会話後に内省し、自分に足りないことや改善点を自覚し、次に生かす。

最初の英会話練習相手がアメリカ人で、しかも日本在住というのはラッキーだったと思います。

こちらのスピードに合わせてくれるし、発音が悪くても意味を察してくれるし、TOEIC英語に近いし・・・

一つ気になったのは、私が「Thank you」と言った後の彼の応答はほとんどが「Of course」だったことです。

「いえいえ、そんなの当然ですよ」というニュアンスなのでしょうが、謙虚で親切な彼の性格を表していると思いました。

しかも、彼は大の日本びいきで、日本が好きだから暮らしていたという人物。

だから、私の方も会話をしやすかったのでしょう。

もし、私がアメリカのオフィスで働いていて、日本のことなんかよく知らないというアメリカ人を相手にしていたら、マシンガンのような英語を浴びせられ、かなり苦労していたと思います。

5)ライティング

ライティングとは、日本語を英語に翻訳することを言います。

日本語を英語に変換する前に、日本語の真意を正確に把握し、英訳可能な状態に持っていくまでが大変です。

労力的には、日本語との格闘が9割、英語への変換作業が1割、というのが私の実感です。

日本語では、相手に忖度してもらったり行間を読んでもらうことを前提としていることが多いですね。

それを何の疑問もなく、習慣的に無意識で実行しているのです。

日本人同士ならそれでも構いません。

しかし、翻訳者が英語に変換する場合は、日本語の前処理が必要です。

曖昧で、非論理的で、足りない言葉から、本当に伝えたい真意を汲み取る。

その日本語の真意を組み立てなおして、英語に変換できる状態にする。

日本人に対してこの作業を要求しても対応するのは難しいでしょうから、翻訳者側でやるしかありません。

その訓練としてオススメの書籍を2冊紹介しましょう。

  • 「英語ロジカル・ライティング講座」ケリー伊藤著(研究社)
  • 「同時通訳が頭の中で一瞬でやっている英訳術リプロセシング」田村智子著(三修社)

私は、これらの書籍を繰り返し読み込んで、音読して、頭に叩き込みました。

この作業は、言語や文化の壁を乗り越えるために、かなり有効だったと思います。

国際ビジネスの現場では、英文電子メールでのやり取りや日本語文書英訳が頻繁に行われるため、ライティングは必須です。

確かに大変ではあるのですが、ビジネス英語はパターンがある程度決まっているため、ある程度の量を覚えれば、繰り返し同じ表現を使えることが多いものです。

また、同じ表現ばかりを使っていると飽きてくるので、そういう場合は、ChatGptを使って表現の幅を拡大するように心がけています。

「・・・・という日本語を英語で表現してください。何個か例を挙げてください。」というプロンプトを入力すれば、すぐにアウトプットが得られます。便利な時代になりましたね。

また、英英辞典の活用も必須です。

「情報は順次共有します」を「The information will be shared sequentially.」と訳して相手に送った同僚がいたのですが、彼は「情報は一括でなく、準備が出来たものから順番に」という意味で、「順次」という言葉を使ったそうです。

「順次」をGoogle翻訳などの和英辞典で調べたら「sequentially」という単語が出てきたため、素直にそのまま書いて送ったそうです。

でも、「sequentially」とい英単語を英英辞典で調べれば、「あらかじめ指定したルールや順番に基づいて」という意味だと分かります。

シーケンサーなど制御装置のような動きをする訳ではないのですから、「sequentially」という英単語は不適切だと気付くはずです。

このような基本的ミスを防ぐためにも英英辞典の活用は必須ですし、私も英英辞典以外は使っていません。

第3章:英語学習の始め方

– 英語学習へのモチベーション維持法

私は社内のTOEIC高得点取得者として認知され、英語勉強方法などを職場スタッフに説明する場が設けられたことがあります。

質疑応答で訊かれたことの一つが、「どうして、そんなに英語の勉強を継続できるのか?」。

実際、日本人が英語を取得できない最大の原因が挫折です。

どうして挫折するのか、その原因を認識して適切な対策を実行すれば、英語学習は継続できます。

以下、私の体験をもとに、モチベーション維持の具体例を挙げていきます。

1)目標の設定や進捗のトラッキング

英語初心者が失敗する典型例が、本屋の英語学習コーナーで適当に一冊購入し独学しようとすること。

9割以上の確率で挫折します。

なぜなら、その本で学習すべき必然性を理解していないから。

闇雲に英語学習を始めても、「なんで私はこんなことしてるんだろう・・?」という疑念が頭をもたげてきます。

まずは自分の立ち位置を客観的に把握し、具体的な目標設定を行い、目標達成のための最適な手段を選ぶこと。

例えばビジネス英語であれば、TOEICテストを受けることで、英語の基礎力を客観的に数字で把握できます。

文法、語彙、リスニング、リーディングの各々において、どの程度のレベルなのか現状把握し、その上で、最終的なTOEICスコア目標を定めるのです。

私の場合は、「英語の基礎力は身に付いています」と胸を張って言える900点超えを目標にしました。

すぐに到達できる目標ではないので、3年以内で達成とか期限を決め、さらに、次の半年で100点アップとか短期での目標も定めました。

TOEICスコアアップのためのノウハウは、今の世ではいくらでも手に入ります。

TOEIC用のスタディサプリなら、スマホを片手にいつでもどこでもスキマ時間を活用して学習を進められます。

便利ツールには事欠かない時代なのですから、あとは実行するかどうか自分で決めましょう。

2)興味を持つトピックや活動と結びつける

TOEIC用対策用の教材は、ビジネス場面とかで使える有用な表現が満載ですし、スコアを効率よく上げるのにも役立ちます。

しかし、内容そのものは面白くありませんから、そればかりやっていると飽きてしまいます。

途中で飽きて挫折するのを防ぎ、モチベーションを維持するため、私は様々な「教材」を併用して学習を続けました。

まず、新聞は英語で書かれているものに代えました。

ジャパンタイムズが多いのですが、必要な情報を得たいという欲求が継続の手助けとなります。

また、すでに日本語で内容を知っている書籍の英訳版もよく読んでいます。

単行本は外国人著者のものがたくさん日本に紹介されていますが、邦訳される前の英語版を読みます。

日本のラノベや漫画は外国人にも大人気ですから、英訳されたものが世界中で読まれており、それを逆輸入して取り寄せています。

アマゾンで電子書籍として購入すれば、時間や手間を省けます。

リスニング学習としては、英語ニュースの視聴(テレビ、YouTube)がオススメです。

いつもNHKをテレビで見ているなら、副音声に切り替えればOK。

最近私がYouTubeで見ているのは、NBC、ABC、アルジャジーラなどですが、毎回聞き取れない部分がありますし、意味の分からない単語にも悩まされています。

好きなタイトルの洋画(アメリカ)を、敢えて英語で視聴するのもオススメです。

英語ニュースよりも難度が高いですが、DVDなら英語字幕を表示させて、音声と文字の認識が一致するように努力しました。

ネイティブスピーカーが自然な表現で自然な速さで喋っているので、何回繰り返して観ても、聞き取りが難しいと感じます。

また、アウトプットの練習として、英会話の体験をするのも有効です。

私は会社の同僚にアメリカ人がいたので、彼との仕事上の必要なやり取りをすべて英語で行っていました。

仕事の必要性から英会話をしていたのですから、挫折をする訳にはいきませんね。

3)継続的な学習習慣の構築

英語学習は日本人にとって最も難度が高いもののうちの一つです。

英語学習を習慣化するにはコツがあります。

まず一つ目は、基本的な英文法を最初にマスターすること。

文章の構造やルールを知らない状態では、英語学習などは拷問に等しい苦行となります。

二つ目は、日常生活のパターンに組み込むことです。

皆さんは毎日、新聞やニュースをご覧になると思います。

日本語で提供されているそれらのサービスを、英語に代えてしまいましょう。

私の経験上、TOEICで700点取れているなら、何とか対応できると思います。

英字新聞ならジャパンタイムズ、英語ニュース(YouTube)ならNBC、ABC、アルジャジーラなどがオススメです。

4)悔しい挫折体験

私は大学入学後の4年間と就職後の約3年、NHKのラジオ英会話を聴いていました。

せっかく学んだ英語を錆びつかせたくないという気持ちと、国際化の時代だからいつかは役立つだろうという曖昧な感覚がありました。

今の会社で研究所勤めをしていた20代半ばの時に、ドイツ出張に同行させてもらえることになりました(1995年)。

私の会社は昔、ドイツの研究機関に投資していたのですが、そこでの研究成果を確認するのが目的でした。

いよいよ、長年の英語学習の成果を試す時が来たのです。

しかし、結果は惨敗。

軽い挨拶や、現場での簡単なやり取りは出来たのですが、会議での議論は聞き取れずチンプンカンプンなのでディスカッションには参加できませんでした。

自分の意志を伝えたいときは、英語ができる先輩や上司に頼んで通訳してもらいました。

それまで、英語をツールとして使いこなす実践経験がゼロだったので、当然の結果でしょうね。

「もっと、自分で話すように頑張ったらどうだ」とイタリア駐在中の先輩から指摘されましたが、短期間ではいかんともしがたく、誠に悔しい思いをした次第です。

帰国後、英語の勉強に取り組み始めましたが、「もう、あんな悔しい思いはしたくない」「英語を自由に使いこなせるようになりたい」という思いが気持ちの底にあり、それが英語学習の原動力となりました。

ところで、今の世の中はどうでしょうか?

老若男女問わず、目先の効率の良さばかりを追っていませんか?

失敗を恐れ、失敗しても見て見ぬふりをする風潮がはびこっている気がします。

自分の頭で考えることもなく、疑問も持たず、上から言われたとおりに勢いで動く。

前例やマニュアルに従い、結果が保証されていることしか実行しない。

失敗の可能性がある場合は、出来ない+やらない言い訳をまず考える。

他人の成果の上澄みを掬い取って、自分の手柄にするような効率の良さが礼賛される。

薄っぺらな経験しかない、器の小さい人間が跳梁跋扈する世の中・・・

英語学習は、長期的視点に立った地道な努力の継続が求められる作業です。

色んな方法を試して、試行錯誤を経験する必要があります。

目先の効率ばかりを重視する薄っぺらな人間にとって、英語学習はもっとも不向きな作業だと言えるでしょう。

5)やらざるを得ない状況、差別化が求められる境遇

私は性格上、社畜や奴隷にはなれません。

空気も読まないし、裏表の激しい人間は大っ嫌いだし、問題意識も旺盛。

昭和の戦前体質を温存している大企業内での「出世」は、とうの昔にあきらめました。

エンジニアとしての仕事もただの作業になり果て、熱意も失われました。

しかし会社とは、経営が傾けば容赦なく弱い立場の社員を切り捨てる存在です。

私自身がリストラの餌食にならないように、防衛策を講じる必要に迫られました。

私は社内的に優位な立場に立ち他社員との差別化を図るため、40代から本格的な英語学習を始めました。

具体的な目標は、TOEICで満点近い得点を取ること。

TOEICは会社内で奨励されており、勤務時間中に社内でIPテストを受けることができます。

そして社員の結果スコアは、人事部にて記録され、そのデータは幹部社員がいつでも確認可能です。

エンジニアとしての知識と経験、そして、TOEICハイスコアという極めて稀な組み合わせを実現することで、私は社内で異色の存在になりました。

まあ、とにかく必死だったので、英語学習を諦めるという選択肢はなかったのです。

6)言葉や人間に対する興味

世の中には、人間というものに興味がない人がかなりの割合で存在します。

人間に興味がないとは、人間の心理とか、性格とか、気持ちとかに無頓着ということです。

そういう人は表面上の仕草はともかく、根源的なところでとても冷たく、乾いた印象を受けるものです。

そういう人は、他人に投げかける言葉にも配慮がなく、受け取った側を混乱させるような言葉の選択が目立ちます。

メールなどの文章も雑で、一読して何を言いたいのかよく分からないことが多いものです。

狭いインナーサークル(内輪)での生活にドップリ浸かり、視野が狭まっているのでしょう。

こういう人は、外国人や外国語というものに対する興味も薄いですね。

必然的に英語学習に対する意欲も低く、継続的な勉強など望むべくもありません。

外国語をツールとして使いこなせるぐらいになりたいと思っている人は、まず、自分自身が人間というものに興味を持てているかどうか自問自答してみてください。

言葉を勉強するというのは、人間を勉強することと同じです。

もし、根源的に人間に対する興味を持てないタイプならば、英語学習の継続は諦めた方が良いでしょう。

– オススメ学習方法の紹介

この節では、私が実際に取り組んだ効果的な学習方法について紹介します。

具体的な学習方法やリソースの活用法、効果的な学習スケジュールの立て方などについて詳しく解説し、読者が自身の学習に活かせるようにします。

以下、原理原則を中心に、述べていきます。

1)英文法の習得

英文法はすべての基礎です。

英文法が不十分なまま学習を進めるのは、不安定な地盤の上に高層ビルを建てるようなものです。

面倒くさがらずに、まずは大学受験レベルの英文法を復習しましょう。

英文法が分からないと、文章を理解することも出来ません。

英文法が分からないと、思いついた単語を適当に並べるだけで、自分の意志を伝えられません。

グーグル翻訳やChatGptなどを活用したとしても、アウトプットが正しいかどうか検証確認することも出来ません。

つまり、英文法が分からないと英語学習がつまらなくなり、簡単に挫折してしまうのです。

挫折を防ぐためにも、頑張って英文法を完璧にしましょう。

2)インプット

外国語でコミュニケーションしたいなら、インプット能力をまず磨く必要があります。

インプットなくして、アウトプットなし。

インプットとは、リーディングとリスニングに分けられます。

リーディングは、複数の文章の集まりを正確かつ早く理解する力のことです。

ビジネス場面を想定したい人なら、やはりTOEICの対策問題集をまずは一冊マスターしましょう。

文法構造や語彙を完璧に理解していることが大前提。

最初は大変かもしれませんが、焦らずに精読を心がけてください。

コツは、英文を読むときに日本語を思い浮かべず、英語のまま理解すること。

英会話などの実践では、頭の中で英語から日本語に変換している時間はありません。

そして、音読。

理解した文章を声に出して読んでください。

TOEICの対策本であればリスニング用のCDが付属していますから、それを何度も聞いて発音、抑揚、リズムをマネしましょう。

好きな洋楽を聴くと、ネイティブ発音のコツを体得しやすいです。

とにかく声に出して読むことで、その英語表現が脳に刻み込まれます。

自分がすらすらスラスラ言える英文ならば、リスニングも楽にできるはずです。

最後は、語彙についてです。

語彙専用の学習は特に必要ありません。

リーディングとリスニング学習の過程で見知らぬ単語や表現に出会ったら、その都度調べて確認すればOK。

語彙は文脈の中で覚えるのが原則です。

受験用の単語帳のように、日本語と英単語を一対一で覚えるような真似はしないで下さい。

そういう知識は、ビジネスの実戦では役立ちませんので。

3)アウトプット

アウトプットとは、スピーキングとライティングのことです。

英会話は相手の話を聞くだけでなく、自分の意志を相手に伝えないと成り立ちません。

ビジネスメールも、相手の英文を読むだけでなく、こちらの考えを返してあげないとコミュニケーションになりません。

英会話や英文メールをいきなりビジネスの現場で実践する訳にはいきませんから、事前準備が肝要です。

まずは、想定できる場面に即した会話シーンをイメージして、具体的に文章化します。

自分で書いても良いですが、ChatGptを使えば、想定会話を膨らますことができます。

例えば、次のようなプロンプトを入れると簡単に会話場面を提供してくれます。

「あなたは大きな機械メーカーの調達担当者です。社外のサプライヤ担当者との会話を想定して作って下さい。やり取りは2往復。日本語と英語を併記。話の内容は納期確認。」

【日本語】
担当者:いつ頃に納品できる予定ですか?
サプライヤー:当初の予定通りに進めておりますので、納期は来月の初旬になる見込みです。
担当者:了解しました。もし何か問題が発生した場合は早めにお知らせください。
サプライヤー:了解しました。今のところ予定通り進めておりますが、何かあればすぐにご連絡いたします。

【英語】
担当者:When do you expect to deliver the goods?
サプライヤー:We are progressing as per the initial schedule, so we anticipate the delivery to be in early next month.
担当者:Understood. Please let us know as soon as possible if any issues arise.
サプライヤー:Understood. We are currently on track as planned, but we’ll notify you immediately if anything comes up.

これを一人二役で音読し、脳に刻み込み込むのです。

なるべくたくさんの例文を覚えておけば、実際のビジネス場面でスムーズに行きやすいです。

しかしやはり、実際に生きた人間との英会話ほど身に付くものはありません。

私の場合は、運よく社内にアメリカ人の同僚がいたので会話相手になってもらえましたが、身近なところで練習相手がいない場合、オンライン英会話を利用するといいでしょう。

実際のビジネスで相手になるべく迷惑をかけないように、十分な事前シミュレーションと訓練に励みましょう。

4)TOEICの活用

英語学習の成果を測る物差しとしてTOEICを大いに活用しましょう。

毎月受けても良いですが、実際には半年で50点スコアアップさせるのも結構大変です。

無理のない範囲で目標を立てないと挫折の原因となります。

3年で300点以上アップさせられれば、成功していると判断していいでしょう。

TOEICテスト後はフィードバックのコメントを必ず確認し、自分の弱点を把握し、学習時の参考にしてください。

確実に進歩していることを具体的なスコアで把握することは励みになりますから、定期的なTOEIC受験をオススメします。

第4章:TOEICの真実

– TOEICの有用性とその限界

TOEICのスコアが高いと、新卒や転職の応募時に有利となります。

企業としては、なるべくTOEICスコアの高い人を採用したいと考えています。

なぜか?

それは、TOEICスコアが高い人の方が英語の基礎力があり、ビジネスでの実践アウトプット力(英会話、メール、翻訳など)が身に付きやすいと考えているからです。

TOEICスコアは、あくまでインプット力の証にしかなりません。

アウトプット力を身に付けるには別途努力が必要ですが、その時に挫折せずに能力アップできる確率が高いのはTOEICスコアが高い人です。

TOEIC300点台の人がまともな英会話スキルを身に付けるのは無理ですから、点数が低い人は英語面で見込みはないと判断されるのです。

このようにTOEICは将来への期待度を判断するのに役立ちますが、逆にデメリットもあります。

TOEICの内容や英語学習に無頓着な人が、「TOEICスコアが高いんだから通訳できるだろ? 翻訳だって余裕だろ?」と勘違いする場合があるということです。

本当にTOEIC対策しかやったことが無い社員が、通訳や翻訳などできるわけがありません。

その結果、「なあんだ、TOEICなんて当てにならねえな」と単細胞的に全否定をする人もいるかもしれません。

そういう人には、丁寧に辛抱強い説明が必要だと思います。

– 著者のTOEIC経験とスコアアップ法の提起

TOEIC用の教材を使って、TOEIC用の対策だけをやっている人のスコアは、700点くらいで頭打ちするというのが私の考えです。

実際、真面目に努力をしている会社の後輩が、700点くらいで3年以上も足踏みしているケースを聞いたことがあります。

TOEICで800点や900点といったハイスコアを安定的に出すには、幅広いジャンルの英語に日常的に接し、かつ、アウトプットにも励むべきなのです。

つまり、英語でのスピーキングとライティングですね。

自分でアウトプットができる英文ならば、その英文のインプットは楽にできます。

つまり、リスニングやリーディングが早く正確にできるようになるのです。

私は実際、TOEICの対策教材だけをやっていたわけではありません。

700点くらいになった後は、英語ニュースや洋画の視聴、英字新聞による情報入手、英会話実践、英訳ライティングの勉強、会社内での翻訳作業従事など、ありとあらゆることを試してきました。

その結果、TOEICスコア940点(2020年1月)を叩きだすことが出来るようになったのです。

TOEICというのは、「自然な英語にどの程度触れてきた人なのか?」を測定しているとも言えます。

普通の資格試験と比べて、対策がしにくいテストに分類できると思います。

実際、TOEICで900点を超えるには、数千時間に及ぶ英語学習が必要です。

TOEICの目先の点数ばかりにこだわらずに、自分の興味の赴くまま、気長に英語学習を楽しんで欲しいと思います。

第5章:社内通訳者への道

– 社内通訳者としての役割と責任

私は現在、会社内の通訳者、及び、翻訳者として仕事をしています。

機械メーカーの調達戦略部署のスタッフ(日本人)と、インドのサプライヤー(部品などを製作して供給してくれる業者)との間に立ち、双方のコミュニケーションが円滑に進むように手助けする役割を負っています。

以下、各項目ごとに詳しく説明します。

1)役割と責任

まずは、オンライン会議での通訳が挙げられます。

日本とインドは時差が三時間半ですが、飛行機だと8時間程度かかる遠い国同士です。

必然的にオンラインでの打ち合わせの果たす役割は大きくなります。

日本人スタッフの言いたいことを英語に訳して、インド人スタッフに伝える。

逆に、インド人の発言内容を日本人に伝える。

このような言葉の橋渡しをすることでお互いの意思疎通を図り、ビジネスを成り立たせているのです。

意思疎通は、音声言語だけでなく、文字情報も使います。

毎日大量にインドとやり取りする電子メールはすべて英語です。

英語を使ったビジネスライティングは必須。

日本語を英訳するのは意外に難しいですから、ほとんどの英文メールは私が作成しています。

英文メールを送るだけでなく、相手のインド人が送ってきた英文メールを日本語に翻訳するのも大切な仕事。

多くの日本人スタッフは英語アレルギーで、英文に触れるのを避けているので、どうしてもグーグル翻訳などに依存しがちです。

グーグル翻訳の結果に不安を覚える場合は、正しい邦訳をするよう依頼されるケースも多々あります。

2)必要なスキルやマインドセット(心構え)

音声と文字を使った異文化コミュニケーション促進が私の仕事です。

異文化コミュニケーションは、馴れ合いや忖度が通用する日本人同士のコミュニケーションとは全く異なります。

多くの手間と時間とスキルと経験が必要であり、言語の壁を乗り越えるためには忍耐や柔軟性も要求されます。

具体的なスキルとして一番必要なのは、日本人側が伝えたい内容の真意を汲み取る技術でしょう。

繰り返しですが、日本語は忖度や行間を読むことを前提とした言語です。

内輪の仲間の中に通訳者がいればいいですが、外部の人に通訳を頼む場合は、内輪での会話に入れるぐらいになる必要があります。

また、日本の同じ部署の同じグループ内であっても、意味不明で訊き返したり勘違いしたりすることはしょっちゅうです。

コミュニケーションをスムーズにするには、まず、日本人発言者の真意を早く正確に理解する必要があります。

オンライン会議での通訳業務で慌てないためには、日ごろから必要な情報を共有し、コミュニケーションを密にして、阿吽の呼吸が成り立つようにしておいた方が良いでしょう。

通訳の立場を慮って丁寧に親切に喋ってくれる日本人スタッフもいますが、それは少数派。

殆どの日本人は、国際ビジネスの場でも普段のペースや喋り方に固執するものです。

不親切で日本語を乱暴に扱う日本人の発言真意を汲み取ったら、次は英訳作業です。

主語と述語を決め、その場にふさわしい表現や単語を選択し、相手に伝わるように発音する。

喋ったら終わりではなく、相手のインド人に本当に伝わっているか確認する必要があります。

アメリカ人のネイティブスピーカーのように流暢な英語を喋っても、相手に伝わらなければ意味がありません。

相手のレベルにいかに合わせるかも、通訳者の腕の見せ所です。

事前に相手と英文メールをやり取りすることができれば、相手の英語レベルや好みの表現を把握できます。

会議でなるべくスムーズに議論を進めたければ、相手に譲歩することが大切だと思います。

やや速度を落として喋り、それでも伝わらなければ、別の表現で言い直す必要があります。

そのためにも、なるべく多くの引き出しを持ち、場面により柔軟に表現を取捨選択できるように日ごろからの鍛錬は欠かせません。

TOEICで900点を超えるための努力は、このためだと言ってもいいでしょう。

相手にこちらの意志が伝わったら、今度は相手が喋る番です。

世界中を見渡しても、きれいなTOEIC英語を喋ってくれる人は少数派。

特にインド人は訛りの強い英語を喋りますし、抑揚やリズムもアメリカ人のそれとはまったく異なりますから、多くの通訳者にとって悩みの種です。

私は今でも苦労していますし、あと何年インド英語に触れれば不自由なく聞き取れるようになるか、全く目途が立っていません。

相手の真意を把握するために、私はオンライン会議で字幕生成機能(英語)を使っています。

つまり、音声情報と文字情報の合わせ技により、何とか対応している状態なのです。

字幕生成機能は元々、耳が不自由な人でも会議に参加できるようにするための技術ですが、社内通訳者の私にとっても無くてはならないツールとなっています。

そして相手のインド人の発言真意を把握したら、それを分かりやすい日本語に変換して、日本人スタッフに伝えることになります。

推測や誤解が紛れ込む余地がない分かりやすい日本語にする、というのがポイントです。

日本人だからそんなの出来て当たり前、と思ったら大間違い。

現実には、ほとんどの日本人は分かりやすい日本語を表現する技術を持っていません。

これは英語とは別に身に付けねばならない高度なスキルであり、異国間の言語橋渡し業務を遂行する立場の者は心して磨く必要があると思います。

3)通訳者としてのプロフェッショナリズム

2)の必要なスキルの項目でも述べましたが、通訳者の仕事は、異なる言語間の橋渡しです。

お互いが相手の言っていることを理解し、相手に自分の真意を伝えられなければ意味がありません。

自分のスキルを披露するのが目的ではなく、あくまで脇役として、ビジネスの主役たちのコミュニケーションをサポートするのが仕事です。

インドの大企業の重役相手に英語でプレゼンしたりしていると、自分が社長になった気分になるかもしれませんが、あくまで通訳は脇役です。

そこらへんの線引きは、常に意識する必要があると思います。

そして、通訳者として大切なのは、準備はもちろんですが、会議で実践したことの振り返りを怠らないことです。

私は、Google-Meetの会議で英語字幕を自動で記録し、それを会議後に確認しています。

議事内容の確認だけではなく、相手や自分の表現を見直すためです。

「この場面では、もっと別の表現にするべきだった・・」とか「この表現は自分の発音が悪くて、グーグル翻訳に検出してもらえなかった・・」とか、今後に生かすための様々なヒントを発見できます。

通訳者も翻訳者もレベルアップの道に終わりはありません。

実践を通して常に反省し、自分の技術を磨き続ける必要があると思います。

4)通訳としての倫理観の重要性

前項で脇役とは書きましたが、通訳者は職場でパワーを持っていることは確かです。

特に、その部署で通訳が出来るのが一人しかいない場合、その部署全体がその一人の通訳に依存する形になります。

代替手段が存在しない状態は、ビジネスシステムとしては脆弱です。

複数の通訳を社内に用意しなければなりませんが、通訳技術は簡単に身に付くものではありません。

(私は数千時間に及ぶ英語学習をしてきています)

社外から通訳を雇うにしても、そもそもインド英語に対応してくれる人を探すのが大変です。

手を挙げてくれる通訳が見つかったとしても、QCD(通訳の品質、価格、納期)を満足するのは困難を極めます。

結果的には現在、私がいる部署では、英語面ではほとんど私一人に頼っている状態です。

この危険な依存状態は、私自身にパワー(影響力)を与えます。

私が急に病気で休めば、会議も出来ずメールも送れず、その日は国際ビジネスがほとんど止まるのです。

パワーは諸刃の剣です。

コミュニケーションでの橋渡しをして感謝されることもあります。

反対に、パワーは人を傷付けることもできます。

「お前の態度や日本語の喋り方が気に食わない。お前の通訳はやりたくない。自分で何とかしろ!」

感情に任せて、こんなセリフを上司に吐くことも可能なのです。

言われた相手は、青ざめて必死に謝罪してくるでしょう。

幸か不幸か、私は現在、部下でありながら上司に対してパワーハラスメントをすることが可能な立場にあります。

もしもパワハラを本当に行ってしまったら、私は後悔して死にたくなるでしょう。

英語の勉強をしてきたのは、人を傷付けるためではなく、人に喜んでもらうためです。

このことを肝に銘じて、社内通訳者+社内翻訳者の役割を果たしていきたいと思います。

– 著者の通訳経験と学び

1)事前準備の重要性

私はビジネス会議などの場面で通訳を行ってきましたが、その経験を通じて通訳の難しさを感じています。

例えば日本語を英語に訳す場合ですが、労力の実感としては、日本語の解釈が9割で英語への変換は1割です。

つまり、日本語との格闘にほとんどのエネルギーを費やしているのです。

私は社員として働きながら社内通訳もしているのですが、それでも他人の会議のために通訳する場合の準備は大変です。

情報共有だけでなく、不自由なく日本人同士で議論できる状態にしておかないと、会議中に真意をスムーズに汲み取れないからです。

オンライン会議中に日本人同士でコミュニケーションが上手く行かずモタモタしていると、相手の外国人を画面の向こうで長時間待たせることになります。

それは信頼を損なう原因ともなり得ます。

日本人同士での事前話し合い、及び、英語表現の事前準備は必須。

社外の人間に通訳を依頼する場合はもっと大変です。

今からすぐにオンラインで会議に参加してもらう訳にはいきません。

会議の一週間前とか十分に時間を取って、必要な資料を事前に渡して読んでもらうなどの配慮が必要です。

社外通訳者と社内日本人スタッフの間で事前にオンライン会議を行い、質疑応答の場を設けることも必要でしょう。

社外通訳の人でも、社内会議で社員と同じように日本語で議論ができるようになっているのが理想ですが、どんなに頑張ってもそれは難しいでしょう。

所詮部外者ですから・・

社内通訳者の利点はそこにあると思います。

社内通訳者は、社内事情に精通していることが一番の強みです。

たとえTOEIC満点の同時通訳者であっても、社内事情に無知であれば無力です。

社内事情に精通していれば、TOEIC500点の通訳モドキの方がよっぽど役立ちます。

2)相手国の文化や習慣を知る

私は昔、同僚にアメリカ人がいたので、よく英会話の練習相手になってもらっていました。

しかし、ビジネス英語を本格的に運用し始めたのは、インド人相手に仕事をするようになってからです。

2023年の7月に現地インドのサプライヤを訪問視察するため、10日程度海外出張をしました。

その時の印象は強烈です。

  • 道路は常にクラクションが鳴り響き、カオス状態
  • 幹線道路の真ん中に牛が座っている。
  • 歩道は穴だらけで危険
  • ビル建設現場では、命綱無しで作業している
  • 食事は香辛料が効き過ぎて繊細さがない
  • ホテルや空港係員の英語ですら聞き取りが困難
  • スラム街が多く、貧富の格差がひどい
  • その他・・

人口世界一で “The fastest growing economiy” 言われているインドですが、その実態は紛れもなく発展途上国です。

でも、人口の上位10%くらいはとても優秀で、日本企業とのビジネスに十分対応できるという印象を受けました。

実際、訪問させてもらったサプライヤの工場内はどこもきれいで整理整頓されており、設備も最新鋭で、最終製品の品質レベルも高い。

一般的なインド人は時間にルーズですが、すでに欧米企業相手に鍛えられているインドメーカーは、時間にも厳しく、こちらの要望にも積極的に応えてくれます。

改善のための提案をしてくれるだけでなく、コストも安い。

とくに人件費は一時間当たり数百円程度です。

多くの日本企業がインドに進出しているのも頷けます。

私は実体験だけでなく、書籍からもインドの情報を補いました。

以下は参考です。

  • 「インド残酷物語」池亀彩著(集英社新書)
  • 「13億人のトイレ」佐藤大介著(角川新書)
  • 「インドの正体」伊藤融著(中公新書クラレ)

様々な角度からインド情報を仕入れようと思った理由は、ビジネスで交渉する相手の背景を知るためです。

表面に現れてくる言葉、文字、態度、表情の裏には、一体どんな事情が隠されているのか?

ビジネス交渉はお互いの利害が対立して上手く行かないこともありますが、その時に根本原因を把握していた方が効果的な対応を迅速に取ることが出来ます。

例えば、サイクロンの直撃を受けた地方では都市機能が三日くらい麻痺しましたが、インドは基本的なインフラが脆弱なので、スケジュールの変更を受け入れるしかありません。

またインドの工場作業員の人件費は安いですが、金属などの材料費はさほど日本と変わらないので、人件費比率が高い製品はコストダウン要求がしやすい、ということもあります。

どの部分で譲歩すべきか、どの部分でこちらの要求を通すべきか。

こういう判断は、英語力だけでは対応できません。

相手国の様々な背景事情も貪欲に吸収する必要があるのです。

社内通訳であっても、英語の業務だけをやっていれば言い訳ではありません。

社員として問題意識を共有し、ビジネスの目的やタスクを達成するために親身な態度を取る(コミットする)ことが肝要です。

そういう姿勢が根底にあると、社内通訳者としてのアウトプットがより豊かなものになるはずです。

これから社内通訳を目指す人は、英語に磨きをかけるのと並行して、広い視野で情報を集め問題意識を高めて、付加価値を高める努力をして欲しいと思います。

第6章:語学力のキャリアへの活かし方

– 語学力がキャリアに与える影響と可能性

ビジネスの世界で語学力を測る尺度として用いられているTOEIC。

TOEICのスコアを企業側は重視するのには理由があります。

まず第一に、日本人にとって習得が難しい英語という言語を長期間努力して身に付けたという実績を表しているからです。

長期にわたる努力を可能にする意志力、忍耐力、柔軟性、そして、知性と教養・・

これらの素養が、TOEICのスコアを見るだけで判断できるのですから、客観指標として広く利用されるのは当然でしょう。

TOEICスコアは会社の人事システムで管理され、幹部クラスはいつでも閲覧できるのが普通です。

ですから、英語力が必要な部署や職種やプロジェクトが社内で立ち上がった時、TOEICスコアの高い人に白羽の矢が立つのは自然な流れと言えるでしょう。

もちろん、TOEIC自体はインプット能力(リスニングとリーディング)を測る指標ですから、アウトプット能力(スピーキング、ライティング)を保証するものではありません。

しかし、TOEICに代表される英語の基礎力がある人は、たとえその時点での英会話経験に乏しくても、実践を通して会話力をアップしやすい傾向にあります。

TOEIC300点台の人が英会話を習ってもビジネスでまともに使える状態にはなりませんが、TOEIC700点以上なら、適切なトレーニングを経れば数か月でコミュニケーションが可能となるでしょう。

つまり、企業側はTOEICスコアを可能性として捉えているのです。

上記を鑑みると、TOEICスコアはキャリアの機会拡大に大いに寄与すると思います。

私の例を挙げれば、TOEICスコアが940点もあることがきっかけで、インド調達事業に関わることになりました。

そして、求められる役割は通訳と翻訳です。

自社側幹部と相手会社幹部とのやり取りで、コミュニケーションの橋渡しをするのです。

その結果、幹部クラスしか知らない重要情報は、常に私経由で流されています。

私自身が、たった一つしかない関所で番人をしているようなものです。

さらに、双方の幹部にも顔と名前を覚えてもらう訳ですから、必然的に存在感がアップします。

社員として通訳という役割を担っていると、その他大勢に埋没せず、替えの利かない存在として重宝されるようになります。

これはサラリーマンとしての効果的な生き残り戦略といえます。

– 著者の経験から得たキャリアへの示唆

私は大学の理工学部で機械工学を専攻し、就職しました。

ですから、入社後のキャリアは、機械系の開発設計業務がメインでした。

周りのスタッフを見ていると、英語ができる人はほとんどいませんし、仕事で使う機会も限られています。

一方、英語力を買われて入社してきた人は、ほとんどが文系のはずです。

つまり、英語ができる人は開発の仕事は出来ないし、開発スタッフは英語ができないのが現実と言えます。

だからこそ、「開発スタッフでありながら英語が出来るようになれば他者との差別化が出来るのではないか」と私は考えたのです。

でも、実際には努力して英語を身に付けても、開発部門で英語が使われることは殆どありませんでした。

将来の展望が描けずに燻っていた時、偶然、調達戦略関係の部署へ異動する話を頂いたのです。

開発経験も生かしながら調達戦略の業務も覚え、かつ、今まで培ってきた英語力を生かすチャンスがやってきました。

私が言いたいのは、「英語力+アルファ」が威力を発揮するということです。

すでに英語力がある人は「+アルファ」の部分を身に付け、「+アルファ」を持っている人は英語力を身に付けられるように頑張るのです。

キャリア戦略として、このハイブリッド型の能力構築は有効だと思います。

英語力だけだと、限られた役割だけを請け負う影の薄い存在になってしまいます。

社外通訳者のケースで見られる、時間の切り売りと同じになりかねません。

ハイブリッドを目指すのは確かに大変です。

しかし、他の人がやりたがらない面倒ごとに取り組むからこそ、差別化が可能になるのだと思います。

第7章:英語とキャリアに関する今後の展望

インドでは現在、数千という日本企業が進出しビジネスを展開しています。

欧米の企業も負けじとインド進出を進めており、日本企業との競争も激しくなっています。

インドは数千種類の現地語を持つ国ですが、ビジネスでは英語を使います。

現地語の影響を受けた訛りの強い英語ですが、大学では原則授業が英語で行われるなど、英語をツールとして使いこなしている印象を受けます。

だから、日本人ビジネスマンも必然的に英語を使わざるを得ない訳です。

いつでもどこでも通訳者や翻訳者を頼れる訳ではなりませんから、デジタルツールを使う人も多いです。

ChatGptに代表される生成AIの翻訳能力は日進月歩。

メールでのグーグル翻訳は便利であり、英文を読まずにグーグル翻訳に依存している人が多数派でしょう。

ポケトークなどのAI通訳機は手軽で便利でしかも安価。

様々な国を観光客として訪れる場合だけでなく、ビジネス現場で活用する企業も増えています。

だからと言って、人間の通訳者や翻訳家が不要になることはあり得ません。

様々な便利ツールのアウトプットを厳密にチェックし間違いないと最終判断する責任は、使用者側が負わねばならないからです。

英語力があり自分の判断に責任を持てる人であれば、様々な便利ツールを大いに活用していいと思います。

業務を効率化し、自分の表現の幅を広げる効果も期待できるでしょう。

しかし、例えばTOEIC300~400点台程度の人が生成AIやグーグル翻訳を使うと、アウトプットの良し悪しを自分でチェックできません。

周囲にチェック能力のある人がいて依頼できればいいのですが、もしいなければ、英語のアウトプットをそのまま相手に送ることになります。

これは、新規のソフトウェアを検証せずにユーザーへリリースするのと同じくらい無責任で悪質な行為です。

しかし、ビジネスの現場ではこのような悪質行為が横行しています。

怖いもの知らずとは、まさにこのことです。

言葉の壁を乗り越えて意思疎通することの難しさと厳粛性を、もっと認識すべきでしょう。

そのためにも、関係者全員が地道な英語学習に取り組むべきなのです。

現実には、社会人で英語学習を始めた人の中で、学習を継続して成果を上げられる人は1割未満でしょう。

だからこそ、是非ともその一割未満の仲間入りをしようではありませんか。

生成AIや自動翻訳機に振り回されるのではなく、責任を持って有効に使いこなせる人になりましょう。

第8章:まとめと読者へのメッセージ

本書では、社内通訳者や社内翻訳者としての経験をもとに、さまざまな観点から論じてきました。

第1章では、サラリーマンとしては決して成功したとは言えない私の経歴紹介をしました。

第2章と第3章では、言語の壁を乗り換えるための具体的な英語学習方法について述べました。

第4章では、TOEICスコアの有用性や限界について記し、自分の経験をもとに効率的なスコアアップ法を紹介しました。

第5章では、運よく得られた社内通訳者のチャンスとその経験について紹介し、その役割、責任、学んだことを論じました。

第6章では、英語力という強みを仕事でのキャリア形成にどうやって生かすか、について述べました。

第7章では、英語力を身に付けることの重要性が今後ますます増えることを、生成AIなどの便利ツールと関連づけて論じました。

なかなか盛りだくさんの内容になったと思います。

可能な限り具体的で、かつ、自分の経験を紹介するように心がけました。

是非、興味があり使えそうな章を再読してください。

繰り返しになりますが、本当の英語力を身に付けるには年単位の学習と努力が必要です。

私の経験上、目安は5000時間といったところでしょう。

そこらの資格試験と比べても、その難易度の高さが分かります。

その領域に達することが出来るのは日本人の中でごく僅かであり、しかも、英語力はビジネスの世界で必要性が増している状況です。

厳しいビジネス環境の中で、他者と差別化する道具として、私は英語学習を読者に強く勧めたいと思います。

組織の中で変人扱いされたり、嫉妬の対象になるかもしれませんが、それは形を変えた称賛に他なりません。

真面目に英語学習に取り組む社員を排除したり、正当に評価できない企業に未来はありません。

そんな昭和の遺物など気にせず、堂々と自分の道を自分で切り拓く気概を持って欲しいと思います。

本書が、読者の皆様のお役に立てば幸いです。

以上

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