サンフランシスコとの姉妹都市解消を表明した大阪市:吉村市長は賢明といえるのか?

 旧日本軍がアジア諸国で犯した無数の犯罪の一つに、性奴隷によって多くの女性の人権を蹂躙したことが挙げられる。事実を隠ぺいする慰安婦という言葉で語られるのが普通だ。この問題を象徴する少女像がアメリカのサンフランシスコ市に寄贈された。サンフランシスコ市が正式に少女像を受け入れたことを受け、大阪市の吉村市長は「信頼関係は消滅した」とするコメントを発表し、姉妹都市を解消する考えを示した。

 自分の気に入らない相手とは絶交だという態度は、極めて幼稚だ。しかし、吉村市長の発言はほとんどの日本人から支持されていると思う。そればかりか、「従軍慰安婦は売春婦だ」とコメントし被害者を侮辱する者も多い。そんな事実は一切ないと否定する人もいる。しかし、日本政府は性奴隷犯罪(=従軍慰安婦問題)の事実を正式に認めている。1993年8月4日に発表された河野内閣官房長官談話を以下に引用する。

引用始め
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 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。

 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

 なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。
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引用終わり

 河野談話を苦々しく思っている日本人は多いが、この政府の公式見解は外務省のホームページにも掲載されており、世界中に向けて発信されたものだ。抽象的な表現ばかりで具体的な犯罪イメージを描きにくいが、正式に認めた事実は重い。

 もっと生々しい生き証人もいる。自民党の中曽根康弘元首相だ。戦時中は官僚(海軍主計大尉=金の使い方を決めれる強い権限を持つ)だった彼は、強姦や博打、喧嘩する兵隊をうまく統制するために自ら慰安所を作ったと証言している。

写真(中曽根康弘元首相の慰安所設置証言)

 自民党の補完勢力である大阪維新の会に属する吉村市長は、中曽根康弘元首相自身の証言も捏造だと言って否定するのだろうか?

 被害を受けた国の団体が、歴史的事実の風化を恐れて何らかの手を打とうとするのは当然だ。特に近年の日本政府は積極的に加害事実の隠ぺいを行い、歴史改竄を積極的に進めているので、このまま傍観していたら同じ間違いを繰り返す可能性があると思われているのだ。日本への不信感が世界中で渦巻いている以上、日本が批判され続けるのは当たり前である。

 大阪市の吉村市長には、サンフランシスコ市への不信感を表明する資格はない。サンフランシスコ市との信頼関係をぶち壊したのは、事実を直視する勇気がない吉村市長自身である。

 加害者としての歴史を学ぶことがない日本の歴史教育では、独善的な反動右翼思想に染まった多くの若者を大量生産している。長年の歴史改竄教育が功を奏し、もはや日本全体がネトウヨ体質になってしまった。思考力がゼロで、過去の過ちからも学べず、同じ失敗を繰り返すという悲しい副産物が成果である。国民が選んだ愚かな政治家たちの暴言・妄言は、世界中の人々によって嘲笑されている。日本人の多くが気付いていないのは、情報鎖国のせいである。

 歴史を考えるときは、加害者としての視点が重要だ。旧日本軍がアジア諸国で行った無数の戦争犯罪のうち、性奴隷問題は一つの例に過ぎない。中国だけでも千数百万人が殺されたという事実をほとんどの日本人は知らない。若い時に知らされなければ、問題意識など持ちようがあるまい。「ネトウヨは教育の失敗」とはそういう意味でもある。

 歴史の教科書は権力者にとって都合の良い事実の羅列であり、都合の悪い事実は隠される。日本では特にその傾向が強い。しかし、あきらめる必要はない。おすすめの参考書籍を以下に紹介する。

 以下は、旧日本軍に侵略された側の中国人から直接聞き取りを行ったものだ。

中国の旅 (本多勝一集)

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 以下は、侵略した側の旧日本軍兵士たちの証言を元に編集されたものだ。我々と同じごく普通の国民が、軍隊組織に取り込まれた後、強姦魔・殺人鬼・放火魔・略奪者に変貌する様子が生々しい。

天皇の軍隊 (朝日文庫)

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 南京大虐殺という言葉は有名だ。以下の書籍を読めば、大虐殺は南京市内だけで行われたのではなく、旧日本軍が南京へ向かう道そのものが大虐殺の現場だった、ということが分かる。

南京への道 (朝日文庫)

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 旧日本軍という侵略者たちは、見つけた女性を片っ端から強姦し、その後、殺したのだ。これは、侵略軍の本質と言える。その陰で暴利を貪って蓄財に励んだ財閥は万死に値する。

 このような事実を直視する勇気がない大阪市の吉村市長に政治家を名乗る資格は無い。発言を撤回し、謝罪し、おとなしく辞職されるがよい。また、このような愚か者を市長に選んでしまった大阪市民も、世界に恥をさらした責任の一端を負わねばならない。

以上

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